再び増える九州へのクルーズ船寄港

2012年1月12日
 昨年の九州は「新幹線イヤー」だったが、今年は「
LCCイヤー」かつ「外国クルーズ船イヤー」になりそうだ。東日本大震災まで増加傾向にあった九州への外国船籍のクルーズ船寄港は、「原発事故の風評被害」と「過去最高の円高」によって激減した。ところが今年は過去最高のクルーズ船が九州に寄港するという明るい兆しが見え始めた。
 
かつてクルーズ船といえば欧米人による長期にわたるロングクルーズ船が時々寄港する程度だったが、45年前から、クルーズ船観光が盛んな欧米の船会社が、経済成長著しい中国に着目するようになり、中国発着で東シナ海沿岸を1週間以内でまわるショートクルーズ船の寄港が急増してきた(お値段もリーズナブルで、5万円から10万円が多い)。九州のアジアへの地理的近接性が生かされている好例だ。中国発着のクルーズ船が増えている最大の理由は、中国人の所得水準の向上だが、中国の企業でも、社員のやる気を引き出すためにインセンティブツアー(ご褒美旅行)を導入する機運が高まっているのに加えて、個人での海外観光ビザの発給要件が緩和されたことも大きく後押ししている。
 
ここで過去4年間の外国クルーズ船の九州への寄港回数を振り返ってみると、2008年が87回(第1位は鹿児島港の30回)、2009年が103回(第1位は長崎港の48回)、2010年は152回(第1位は博多港の61回)である。毎年、寄港地の1位が交代するほど、博多港、長崎港、鹿児島港の3港は激しい誘致争いをしている(これら3港以外では、屋久島の宮之浦港と宮崎県の細島港)。
 
この2010年の152回という寄港回数は全国的に見て多いのか少ないのかというと、2010年の全国の実績は299回なので、九州の全国シェアは51%、クルーズ船の過半数が九州に寄港していることになり、九州は外国クルーズ船寄港の一大拠点となっていることが分かる。港別に見ても、全国1位が博多港で、第2位には那覇港が入っているが、3位鹿児島港、4位長崎港と続き、神戸港の32回や横浜港の19回を大きく上回っていた。
 
ところが、昨年2011年は原発事故の風評被害と円高のため、当初は2010年を上回ると見られていたのに、キャンセルラッシュに見舞われて、結果、55回と前年の約3分の1にとどまってしまった。ただ、昨年の秋口以降は回復傾向にあり、今年2012年は現時点で九州運輸局が把握しているだけでも博多港の55回を筆頭に、九州全体では少なくとも118回の寄港が予定されているので、再び今年はクルーズ船復活の年となりそうだ。
 
そして今年はクルーズ船について大いに期待できる動きが2つある。
 
1つはハウステンボスが229日に運航開始する長崎-上海間のクルーズ船である。船は314日まで週1往復で不定期運航し、316日以降は週2往復で定期運航する(片道約22時間)。注目すべきは料金で、片道運賃は9,800円、2週間前の早割なら7,800円(いずれも燃油サーチャージ代などは別)。客室利用料が掛からない座席は約500席あり、特別仕様の座席と個室は別途利用料が掛かる。レストランは4カ所設け、朝、昼、夜の3食セットで2千円、5千円、1万円の3コースが用意されている。中国と東京、大阪を結ぶ定期便は67万円と中国人にとって訪日観光の敷居はなお高いので、十分、商機はある。
 
今年期待できるもう1つの動きは、韓国の船会社「ハーモニークルーズ」(本社・ソウル)が、釜山と仁川の両港を拠点として、博多港、長崎港、別府港、鹿児島港の各港を寄港地とする「九州クルーズ旅行」を始めることである。第1便は23日に仁川を出発し、済州島-長崎-鹿児島-別府-博多-釜山を67日で回る。年間では100便弱の運航を予定している。韓国の船会社が日本へのクルーズ船を運航するのは初めてのことで、アジアの観光客誘致に力を入れている九州の自治体にとっては絶好のチャンス到来となりそうだ。
 
ただ、九州観光推進機構が「総合特区」案件として、就労に制限がある留学生を通訳ガイドに活用するという「九州観光「おもてなしの輪」創造特区」を申請しているが、なかなか国から規制緩和を認めてもらえないなど、クルーズ船の経済効果を引き出す上での課題は少なくない。

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2012年の九州経済 -エコと医療とアジアが鍵-

2012年12月29日
 2012年の九州経済をざっくりと予想すると、今年よりはましだが、引き続き回復感は実感できないということになる。今年の九州は、被災地から遠いこともあって、全国より成長率は高かった。全国は東日本大震災と福島原発の影響でマイナス成長となったものの、被災地から遠い九州はややプラスを達成しただろう。ただ、そのプラス幅は期待を大きく下回った。理由は、震災やタイの大洪水でのサプライチェーン寸断の影響が大きかったことと、九州では安泰と思われていた「電力問題」が足を引っ張ったことによる。
 
2012年の九州は、プラス成長こそ確保できるものの、全国の成長率を下回る。理由は、被災地の復旧・復興に向けた傾斜配分が実施されるため、復興特需の影響が小さいためである。今年は被災地から遠いことがプラスに作用したが、来年は逆だ。企業の設備投資は、今年実施できなかった分が繰り越されるが、九州企業の決算の多くは、基本的に売上は増えるが利益は減るといった「増収減益」パターンなので、キャッシュフロー経営で設備投資に回す原資が不足するため、牽引車とはなりにくい。全国と九州で最も明暗を分けるのが公共投資である。公共投資は、全国では2ケタ近い伸びが見込まれるが、九州は若干のマイナスとなろう。
 
また、全国レベルと同様に、「3つのリスク」はそう簡単に払拭できそうにない点も気掛かりだ。3つのリスクとは、「原発停止に伴う生産の低迷」「米国やEUの金融不安による景気低迷による外需低迷」「円高の進行」である。
 
こう見てくるとお先真っ暗な九州経済だが、勿論、期待がもてる分野もある。1つは、北部九州の鉄鋼・化学といった基礎素材型産業が、被災地の復興特需向けに材料を供給するため、プラスに働くことである。2つ目は、LCCといった空の便だけでなく、長崎と上海を結ぶ「上海航路」の定期就航が始まり、原発事故の風評被害で激減したクルーズ船の博多港・長崎港・鹿児島港への寄港も復活することで国際観光に復活の兆しが見え始めることである。3つ目は、特定地域に規制緩和や税財源の優遇措置を講じる「総合特区」(今年6月に法案が成立した支援策で、従来の構造改革特区は規制緩和だけの支援策だったが、今回の総合特区はカネの面でも支援する)に福岡県・福岡市・北九州市が共同申請していた「グリーンアジア国際戦略総合特区」と大分県・宮崎県が共同申請していた「東九州メディカルバレー構想特区」が1週間前に選ばれたことである(全国で88案件が提出され、33件が認定された)。グリーンアジア国際戦略総合特区は環境産業の拠点化とアジアへのビジネス展開を目指すもので、太陽光発電を設置する際に、建ぺい率を緩和するなどの特例が認められる見通しだという。東九州メディカルバレー構想特区は医療産業の拠点化を計画している。延岡から内陸側には、カテーテル生産工場をはじめ、医療関連産業が古くから立地しているという強みを活かしたい。
 
「環境産業」と「医療産業」そして「アジア」といった新しい成長戦略に相応しい球出しはきちんとできているので、これらが一部地域に特化した産業から九州全域に広がることで新しい成長の柱がつくられていくことが期待される。
 
政府・日銀には、増税や利上げといった「出口政策」を急がないように求めたい。1997年の消費税率引き上げや2000年のゼロ金利解除と同じ轍を踏んではならない。

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2011年九州経済の○と×

2011年12月22日
 波乱万丈の日本経済にあって、九州経済は何とかバランスをとりながら乗り切った1年だったと言える。
 
何と言っても2011年九州経済最大のトピックスは「九州新幹線全線開業」である。3.11翌日の全線開業でオープニングイベントは全て中止となり、当初3か月間の利用は、とりわけ北部九州で30%増加(JR九州の目標値は40%)にとどまるなど低迷した。しかし震災直後の自粛ムードが和らいだ夏場以降は徐々にペースを上げて10月からの運賃値下げ効果もあって、目標は何とか達成できそうだ。関西からの観光客は大幅に増えて、鹿児島県指宿市のホテル・旅館で今年赤字になるところは皆無と言われている。九州の全市町村で最も景気の良かった市町村を1つ挙げるとすると、「鹿児島県指宿市」ということになる。JR九州の「指宿のたまて箱(いぶたま)」が大ヒットしたように、観光地を「演出」する工夫がもっとあっても良いだろう。また、今年関西からのビジネス客・観光客が増えたことを実感するのは、博多駅・熊本駅・鹿児島中央駅のエスカレーターを利用する時である。昨年まではほとんど見られなかった「右側に並ぶ姿」を頻繁に見かけるようになったことが、関西人の観光客・ビジネス客が増えたことを象徴している。
 
また、もう一つの九州新幹線「西九州ルート(長崎ルート)」についても、昨日、武雄温泉-長崎間がフル規格に格上げされる見通しとなり、費用対効果がアップすることとなったのは良かった。西九州ルートの必要性については賛否両論あるが、基本的なロジックとしては、「現在の長崎本線は単線区間が多く、とりわけ有明海沿線はちょっとした雨量でも運行見合わせになる場合が多いので何とかしたい」→「しかし、現ルートでの複線化工事はスペース的に困難で、抜本的な防災対策ができない」→「新しいルートで複線化したい」→「フリーゲージトレインを開発し、西九州ルートに新鳥栖から直接乗り入れ可能としたい」ということであり、初めからフル規格の新幹線ありきではないということを市民県民のコンセンサスとしてもっておくことが大切だ。フル規格化によって開業が2018年から2022年へと4年延期される見通しだが、今後10年間でフリーゲージトレインの完成度を高めつつ、新幹線活用戦略策定と地元負担増加の合意形成を図る時間も稼ぐことが可能となった。
 
さらに、九州新幹線鹿児島ルートの全線開業では、ちょっと期待外れなこともあった。九州新幹線は、本州で整備されてきた新幹線が世界都市=東京と田舎を短時間で直結することを第一目的としてきたことと意義が異なり、九州の南北の移動時間距離を短縮して九州の一体感を高めることが第一目的である。九州新幹線がレールの上では東京までつながったからといって、東京に行くのに飛行機から新幹線にシフトした九州人はほとんどいない。むしろ、九州人のマイレールとして利用されるべき移動手段なのだが、新駅の使い勝手の悪さや高めの料金設定もあって、いまいちその効果が発揮できているとは言えないのが残念だ。私自身が1年に九州の南北を毎年70回以上往復するが、全線開業したからといって、新幹線の利用頻度が高まったわけではない。ダイヤと運賃については、今後もタイムリーな見直しが求められる。
 
今年は関西からの入り込み客が多く、来春(317日)のダイヤ改正で新大阪-鹿児島中央直通便が現在の15往復から23往復に増便されることとなっているが、LCCという強力なライバルが、3月からの関空-福岡間だけでなく、関空-鹿児島間でも4月から飛ぶことが決まったので、移動手段供給過剰による価格破壊は必至となろう。
 
一方、福岡市民に今年一番のトピックスを尋ねると、おそらく九州新幹線よりも新博多駅ビル開業の方が票を集めるだろう。32日のプレオープンから半年間(185日間)で3080万人を集客し398億円の売上となった「JR博多シティ」によって、天神の集客力にも陰りが見られたが、今月の「ホークス優勝おめでとうセール」は、ここ何年も続いていたクライマックスシリーズの敗戦後の「ありがとうセール」とは別格で、博多シティにやられっぱなしだった天神の3つの百貨店は2ケタの売上増を達成した。九州最大の商業地=天神の底力を、今年最後に見られたのは良かった。
 
往年のプロ野球パ・リーグファンは、数十年ぶりの形を変えた「阪急(JR博多シティの阪急百貨店)VS西鉄(We Love天神協議会の中心)」戦をどのように見ていただろうか。

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WTO加盟から10年経過した中国

2011年12月15日
 今日木曜日から明後日土曜日までの3日間、スイスのジュネーブで世界貿易機関(WTO)閣僚会議が開催される。WTOが機能しないからTPPみたいなのが幅を利かすことになっているので、何とか充実した会議にしてもらいたいが、二国間・多国間のFTAEPA交渉が活発化すればするほどWTOは弱体化するので、大した成果は得られそうに無い。
 
中国が世界貿易機関(WTO)に加盟して、先日の日曜日11日で丁度10年が経過した。10年前の20011211日は、9.11同時多発テロから3か月目ということや、国内ではBSE(牛海綿状脳症)で大騒ぎとなっていたので中国のWTO加盟はそれほど大きく取り上げられることはなかったが、この10年間を振り返ると、日本経済・九州経済を語る時に、(好きか嫌いかの問題は別として)中国抜きでは語れなくなるほどその存在感を高めた10年だったと言える。
 
WTO加盟前の中国のキャッチフレーズは「世界の工場」で、1980年代にそう呼ばれていたアジアNIES(韓国・台湾・香港・シンガポールといった4つのドラゴン)やASEANを蹴散らすように急速に台頭した。「世界の工場」はWTO加盟後には「世界の市場」と呼ばれるように変貌を遂げ、国内総生産は2年前にドイツを抜いて世界第3位へ、昨年は日本を抜いて世界第2位の経済大国へと成長した。10年間でGDP4倍に増えているので、平たく言えば、所得倍増どころか「所得4倍増」を達成したことになる。増加率だけでみると、40年前の日本の高度成長期の名目GDP15%とか18%で成長していたので、「それ程でもない」と負け惜しみを言いたくもなるが、人口13億人規模の国家が10年で所得4倍増となると(好きか嫌いかの問題は別として)、その存在感は高まらざるを得ない。そして中国は「WTO最大の受益者」となった。
 
その中国は、WTO加盟前も加盟後もアジア経済、日本経済そして九州経済に大きな影響を与えてきた。
 
先ず「加盟前」については、1997年夏のアジア経済危機後に日本が戦後初めての金融危機を迎えたようにアジアNIESもアセアン諸国も不況に陥ったが、世界の貿易ルールに乗っかっていなかった中国だけは、ほとんど平気の平左でいたので、その後の韓国やシンガポール、香港、台湾のV字回復をもたらした。グローバル化のバッファー(緩衝材)の役割を果たした。
 
次に21世紀の幕開けとともにWTO加盟を果たした中国は、大幅な関税引き下げを飲まざるを得なかったので、日本そして九州からも自動車や半導体等電子部品、鉄鋼製品、化学製品の輸出が活発化して、20022月から20082月までの73か月におよぶ戦後最長の景気回復局面の主役となった(戦後最長の景気回復について実感を伴ったかというと、話は別)。
 
10年前と比べると、九州から中国への輸出額は1,800億円から1800億円へと6倍に増え最大の貿易相手国となっただけでなく(北米への輸出額は10年前の7,648億円から昨年の6,997億円へと9%減少しているのと対照的だ)、九州からの企業進出件数は10年間で299件に達している。さらに、もともと少ない外資系企業の九州進出を過去5年間についてみてと、18社が進出しているうち中国企業が6社と、韓国の4社、アメリカの3社を上回っている。
 
そんな具合にこの10年間でプレゼンスを高めてきた中国と、来年以降どう付き合っていくのか。日中韓のFTA締結に向けた産官学の会合が昨日から韓国で始まった。来年前半の交渉開始を目指すという。政府の意欲は認めるが、果たして、国内の被災地復興とエネルギー政策見直しよりもプライオリティの高いテーマなのだろうか。

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またまた産業空洞化懸念

2011年12月8日
 先月末、東芝が小倉北区の北九州工場を含む国内3工場の閉鎖方針を発表した。大分市の東芝大分工場の生産縮小も同時に発表され、合わせて千人以上が福岡県豊前市の関連工場などに「配置転換」される。しかし、「配置転換」とは言え、ヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源のうち、ヒトは動きにくい。とりわけ90年もの歴史があると、撤退の影響は大きくなる。千人の職場がなくなるということは、その家族まで含むと、その23倍の生活への影響が懸念される。
 
福岡にいると、東芝北九州工場閉鎖の話でもちきりだが、南九州では、1969年に鹿児島県が誘致した鹿児島松下電子、現在の「パナソニックセミコンダクターオプトデバイス」が撤退を表明し、大騒ぎとなっている。
 
全国的にみて工場再編の大きな動きを示しているのは「東芝」と「パナソニック」である。背景にあるのは、極端な「円高」(名目上は過去最大の円高局面だが、物価水準を勘案すると、実質的には過去最高ではない)と、アジア各国との「競争激化」が、電子部品メーカーや家電製品メーカーに工場の「選択と集中」を迫っており、その影響が対岸の火事ではなく、九州の身近な地域経済にも影を与え始めている。今後、他メーカーがどのように動くか目を離せない。
 
とりわけ、今回の東芝北九州工場の場合、東芝の前身となる「東京電気」小倉工場が1920年に操業を開始してから90年以上の歴史をもつ工場の撤退なので地域への影響が大きい。一般的には、半導体産業は使用する部品点数は少ないので、使用する部品が2万点とも3万点とも言われる自動車産業に比べると「裾野が狭い」すなわち取引企業は少ないと言われているのだが、90年以上の歴史となると様子は異なる。地元での取引先は数百社と多く、その多くは中小・零細。下請けとして直接取引をしている工場だけでなく、周辺の弁当屋、従業員が買物をしていたスーパー・コンビニ等々への影響も甚大なものとなろう。さらに市町村レベルの問題を超えて、「シリコンアイランド九州」全体への影響も懸念される。
 
ここで、20089月のリーマンショック以降、近年の九州の大型工場閉鎖を振り返ると、20092月の鹿児島県出水市のパイオニアプラズマディスプレイ鹿児島工場と9月の鳥栖市のパナソニック工場、そして12月のNEC液晶テクノロジー鹿児島工場、20103月には八代市のパナソニックセミコンダクター、10月には福岡県宮若市の東芝LSI2011年に入ってからは、3月のパナソニック電工久留米工場、4月の大牟田市の三井金属子会社のエム・シー・エスと続いた。
 
近年のシリコンアイランド九州の特長の1つは、北部九州で生産能力が高まってきた電子部品で武装する自動車産業との一体感が高まってきて「カーエレクトロニクス」という言葉が定着したのだが、その関係が維持できるかどうか、瀬戸際にある。
 
ただ、暗い話ばかりではない。2009年に撤退した佐賀県鳥栖市のパナソニック工場跡地には、生活用品製造卸のアイリスオーヤマが土地建物を取得し、20121月からLED照明関連の生産を開始する。新工場では100人を新規雇用する予定だ。アイリスオーヤマは、LED照明の生産拠点を中国大連に一極集中していたが、LED関連市場が急拡大するのに伴って工場の分散化を図る。このように、国内では工場集約の動きが活発だが、アジアも含めてみると、巨大生産工場の分散化の動きがないわけではない。
 
今後は、企業誘致の対象を、これまでの半導体や自動車部品という老舗メーカーだけでなく、環境・エネルギー産業や医療産業にも広げて検討すべきだろう。

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政策が邪魔をする

2011年11月24日
 失われた20年(バブル崩壊は19912月なので、厳密に言うと「間もなく失われた21年」)を振り返ると、実感こそ乏しいが、大本営発表では、景気回復局面が3回あったことになっている。その3回の景気回復が軌道に乗りそうになった時に政策ミスが生じていた。1回目は「財政政策の失敗」、2回目は「金融政策の失敗」そして3回目は「政策運営の失敗」である。
 
1回目の景気後退局面(19913月~199310月)では、緊急経済対策や総合経済対策や新総合経済対策などで補正予算が5兆円~10兆円積み増しされて「公共事業」が発注された。良く言えば「有効需要の創出」、現実的な表現をすれば「次世代からの借金のバラマキ」が行われた。その結果、バブル崩壊から32か月後には緩やかな回復局面に転じて、軌道に乗りそうになった19974月、あろうことか当時の橋本政権は消費税率を3%から5%に引き上げた。日銀短観ではDIのマイナス幅がじわじわと0に近づいてちょうど±0になった(19972月)直後に消費税率は引き上げられたのである。日本経済は自律的な回復局面に入った、あるいは入るであろうと勘違いしたのだ。ばらまいた次世代からの借金を取り返そうとの思いが強くて消費税率引き上げを我慢しきれなかったのである。そして975月を山として戦後最悪の不況期に突入していった。不幸は重なるもので、消費税率引き上げ直後の夏には「アジアの経済危機」に巻き込まれた。その年の11月には北海道拓殖銀行が破たんし、山一証券が自主廃業するなど、日本は戦後初めて「金融危機」を迎えた。消費税率引き上げをあと12年我慢しておれば、景気は自律的な回復局面に入って、税収増となったのに残念だ。「財政政策の失敗」である。
 
失われた20年における2回目の景気回復局面は、19992月から始まった。きっかけとなったのは「ITブーム」である。1人1台のパソコンが定着し、メールと携帯で仕事をするのが一般化した。シリコンアイランドに代表されるようなIT関連の製造業だけでなく、ソフトウェアやシステム開発などの新しいビジネスが台頭してきた。とても重要なのは、この2回目の景気回復局面が始まった19992月とは、日本銀行が初めて「ゼロ金利政策」をとった時と一致することだ。遅ればせながらも正しい金融政策であった。ところが景気回復が1年半続いた20008月、何を勘違いしたか、日本銀行はゼロ金利政策を解除してしまった。2000811日の日銀金融政策決定会合の議事録が今年1月になって公表されたが、9人のうちの2人(植田和男東大教授と中原伸之元東亜燃料工業社長)は最後までゼロ金利政策解除に反対し、激しいやりとりがあったことが分かる。もう少しで自律的な回復局面に達しようかとしていた矢先の利上げによって、3か月後から再び景気は後退局面に突入した。「金利がゼロ」という状況は異常だからという理由で、インフレになったわけでもないのにゼロ金利は解除された。あともう少し我慢しておれば、デフレに歯止めがかかったのに残念だ。「金融政策の失敗」である。
 
さて、失われた20年の3回目の景気回復局面である。先月、内閣府が主催する「景気動向指数研究会」を開催して、21世紀に入ってから観測された戦後最長の景気回復局面の期間を確定した。それによると、20022月から20082月まで、61か月、73か月続いた。ほとんど実感無しだが、大企業の中には、売上・利益ともに戦後最大となった先も少なくない。もちろん戦後最長の景気回復局面の火付け役は、200112月にWTO加盟を果たし、世界の工場から世界の成長エンジンへと変貌しつつあった中国の特需である。日本からの輸出は毎年2ケタ増加を続けた。もう一つの要因は、アメリカを舞台とするマネーゲーム「サブプライム住宅ローンバブル」である。そんな戦後最長の景気回復に水を差したのは、一般には2008915日の「リーマンショック」の発端となった2007年夏の「サブプライム住宅ローンバブル崩壊」が「A級戦犯」と言われている。しかし、アメリカの住宅問題とは別に、日本国内でも住宅問題が大きく景気の足を引っ張っていた。20076月の建築基準法改正である。耐震強度の構造計算書偽装をきっかけとして、高さ20mを超える設計や建築確認に関する規制を大幅に強化した(構造計算適合性判定=ピアチェックと呼ばれる第三者チェックが制度化された)が、それにより設計や審査に遅れが生じ、現場は大混乱となった。全国の新設住宅着工戸数は前年同月比2割以上の大幅減が続いた。建築物着工は重要な景気の先行指標である。建築物が建つからこそカーテンやカーペット、照明器具からシステムキッチン、ユニットバス等の荷動きも良くなる。建築基準法改正という規制の強化は正しかったが、その政策運用面がまずかった。先ず、法施行までの準備期間が短く、周知徹底がなされていなかった。「政策運用の失敗」である。
 
失われた20年を振り返ると、何度も逆転のチャンスがあったことに気づく。その都度政府・日銀が前面に出すぎてしまって景気本格回復の芽を摘んだとも言える。ヒットが打てなくて負け続けた20年ではなく、エラーによって負け続けた「失われた20年」だったことに気づく。
 
では、今の政府はどうすれば良いのかというと、消費税問題やTPP問題も勿論重要だが、先ずは「震災の復旧・復興」と「電力問題に道筋を立てること」に集中して、あとは民間に任せておいたほうが良いのではないか。欧米諸国が「失われた10年」の1年目に足を踏み入れている現在、政府が下手に動くと、せっかくの景気回復の芽を再び摘んでしまうのではないかという気がしてくるのである。もし、もう1つ取り組みたいと言うならば、民主党が政権を取った時にもっとも期待されていた「年金問題にけりをつけること」ではないか。

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LCC元年を迎える九州の空港

2011年11月17日
 今年の九州最大のニュースの1つは「九州新幹線鹿児島ルート全線開業」だが、もう1つの九州新幹線、すなわち「西九州ルート」についても明るいニュースがあった。先月末、懸案だったフリーゲージトレイン(軌間(きかん)可変電車)について、在来線の曲線部も特急並みの速度で走行する技術が確立されたことが国土交通省から発表された。これによって2018年春の開業を目指している九州新幹線西九州ルートの諫早長崎間の新規着工にも弾みが付くのではないかと地元では期待が高まっている。そして新幹線で勢いづくJR九州が目指している3年後(2014年)の株式上場もますます現実味を帯びてきた。
 
このように今年は鉄道が大いに注目されたが、来年は空の便が大いに注目され、とりわけ「LCC元年」と呼ばれるだろう。
 
LCCローコストキャリア(Low Cost Carrier)の明確な定義はないものの、一般的には「大手航空会社より圧倒的に安い運賃で運航サービスを提供する航空会社のこと」として認識されている。「格安」航空会社としては今から13年前の1998年に羽田-福岡間でデビューした「スカイマーク」が広く知られており、宮崎市に本社を置く「スカイネットアジア航空」や北九州空港を本拠地とする「スターフライヤー」なども広い意味では日本版LCCと言えなくもないが、最近のLCCは「格安」を超えた「激安」航空会社と位置づけられる。LCCは、特定区間に絞り込んだ路線の設定、大都市周辺で着陸料金が安い地方空港の活用、使用機種を燃費効率の良い中型ジェットに統一することで部品の発注コスト削減だけでなくパイロット・乗務員の訓練コストの抑制、機内食などのサービスの廃止または有料化、インターネットなどを利用した航空券の直接販売で中間に入っている代理店のコストカット、契約社員の活用、客室乗務員による機内清掃などによりコスト削減を図り、激安運賃を可能にした。
 
九州では既に、韓国のエアプサンが福岡-プサン間50分を毎日運行しており最安往復料金は9,900円(高速船ビートルは2時間55分、往復最安は10,000円)、また、チェジュ航空が北九州-仁川間を90分で週3往復しており最安は15,000円で運行している。さらに佐賀県と中国の格安航空会社(LCC)の「春秋航空」(上海市)が今月1日、開港から13年経つ佐賀空港と上海浦東空港を結ぶ週2往復の定期チャーター便を来118日に就航することで合意したと発表した。最も安い運賃を片道3千円(180席のうち1割に限定)に設定するとしている。佐賀県は熊本県との1年近くかけた春秋航空誘致合戦に勝利したのだが、国際線ターミナルの整備に9億円を投じるだけでなく、着陸料41千円と管制塔利用料18万円を全額補助し、上海からの県内団体県内宿泊客には13千円を補助するため、3年間で14億円を超える財政負担が生じている。稼働率を維持するためには、九州各県からの佐賀空港の利用者増加策も不可欠となるだろう。そうなると、既に上海便をもっている福岡空港(13往復)だけでなく、長崎空港(週2往復)や鹿児島空港(週4往復)との競争が激しくなるのは「鉄板」である。
 
従来のLCCは、外資系航空会社が日本に攻めてくるといったパターンで、国内航空会社は守り一辺倒だったが、来年2012年には、国内線に一気に3社ものLCC(格安航空会社)の空路が誕生する。全日本空輸(ANA)が香港の投資会社などと組んだ「ピーチ・アビエーション」、さらにはマレーシアのエアアジアと組んだ「エアアジア・ジャパン」のLCC2社を設立したのに続いて、日本航空(JAL)はオーストラリアのカンタスグループや三菱商事と共同で、「ジェットスター・ジャパン」を設立した。いずれも成田国際空港や関西国際空港を拠点として、国際線だけでなく国内線も飛ばす予定だ。
 
全日空系のピーチは、201231日に「大阪(関西空港)-福岡」間で14往復8便の運航開始を予定している。機内サービス(飲食、オーディオ、ブランケットなど)や、座席指定を有料とする方針とのこと運賃については今月中にも発表される予定。同じ区間の路線を運航するANAの特割運賃が最安値で13,500円程度(伊丹-福岡だと13,000円程度)、JR西日本が期間限定で販売している「山陽新幹線2枚きっぷ」が片道当たり12,800円(新大阪-博多)、高速バスの福岡-大阪間が片道8,900円、4列シートの高速ツアーバスが平日4,000円前後、といったところから推測すると、ツアーバスよりは高く、高速バスよりは安い運賃の7,000円程度になるのではないかと一部では予想されている。
 
また、「エアアジア・ジャパン」は、20128月の成田-福岡線の就航許可を申請している。成田-福岡線は既に同社が12往復運航しているが、LCCの就航で需要を一段と開拓できると判断した結果だという。運賃や便数は未定だが、自社内にライバルを抱え込むことにならないのだろうか?
 
LCCと言えば、かつては国際線の話と思っていたのが、来年からは国内線にも就航して航空運賃の価格破壊が進む。海外旅行の場合は、価格引き下げが新しい需要を発掘し、今まで以上に海外に行くようになるだろう(価格弾性値が1以上ということ)。ところが、国内線での価格破壊は、新しい需要を発掘すると言うよりも、既存の公共交通機関同士が限られた市場のパイの争奪戦を激化させて、単なる消耗戦に終始しないか心配である。消耗戦の先にあるのはどちらかの破綻である。加えて、地方空港がLCC誘致合戦を始めるとなると、既存の公共交通機関の収益を圧迫して、結局は採算の合わない地方バス路線や地方鉄道路線の切り捨てとなってしまうのではないか。
 
LCCは、米国の「航空自由化」を契機に登場し、世界的に航空規制緩和が進む中で世界各地に数多く誕生してきた。航空自由化とは規制緩和・民営化の象徴のようなもので、運賃自由化、参入・退出の自由化、便数設定の自由化を指す。航空自由化により、航空会社間の競争が促進され、運賃値下げによる利用者の利便性は確かに向上した。消費者主権という御旗のもとに米国スタンダードを受け入れてきた結果が、現在の国内LCCを生むことになったとも言える。
 
さて、TPPに参加するとなると、このような米国スタンダードが雪崩のように国内に入り込んできて価格破壊が一段と進み、デフレに拍車がかかるのではないだろうか。その陰で市場規模の小さい地方が切り捨てられないように措置(税金投入)することが重要である。ということは、「最初から行き過ぎた規制緩和をしなければ良い」ということになるのではないか。TPPを考える時には、そのあたりの匙加減(「消費者主権」と「均衡ある国土の発展」のバランス)について、もっと議論を詰めておく必要がありそうだ。

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TPPより優先すべきこと

2011年11月10日
 平行線の論争に歩み寄りが見られないTPP交渉参加問題について、今日、野田総理が交渉参加を政治決断するだろう。
 
今年は日本経済にとって特別な年で、震災と原発事故への対応を最優先するために5月時点では「TPP参加問題は先送りする」と閣議決定されていただけに、その国内事情を9国にきちんと説明して「ごめんなさい」で済ませる場として今週末のAPECに臨むのかと思っていたのに、不意打ちのように「交渉参加」を野田総理が打ち出したので九州の農業関係者も大騒ぎとなってしまった。また、EU(欧州連合)が国家間経済連携の成功例として幅を効かせていた時代に構想されたTPPだが、お手本とするはずのEUがギリシャ危機からイタリア危機へといった具合に世界同時不況の火種となってしまっている今の時期に積極的に頭を下げてまでTPP交渉に参加する意義がよく分からない。今のEUの状況を知っていたら、果たしてTPPという発想はあり得たのだろうか。それでも世論調査結果を見ると、交渉参加を支持する割合が多いようだが、「とりあえず、交渉に参加して情報を引き出すくらいなら良いのではないか」といったあたりが一般的なサラリーマンの感覚だろう(そもそも21分野24作業部会それぞれにメリットとデメリットの2つの側面があるので、24×248項目の情報が必要となるのだが、AKB48ならぬ「TPP48に関する情報が不足したまま国家戦略に関する問題をアンケート調査すること自体に問題がある)。
 
TPPと九州」というテーマについては、政府がTPPを含む包括的経済連携に関する基本方針を閣議決定しちょうど1年前(20101111日)のこのコーナーでも取り上げていて、21分野のうち市場アクセス分野のメリットとデメリットに関する基本的な状況は1年前と何も変わっていない。農業生産額が全国の2割を占める食料供給基地にあって、なかでも南九州の畜産経営への打撃は大きいが、全ての農家がTPPに反対しているわけではなく、九州からの生卵やイチゴや緑茶の輸出は10年前の30倍以上に増えているが、TPPによって関税だけでなく、検疫基準の平準化にも期待を寄せる農家がいないわけではないことも頭に入れておく必要がある。一方、シリコンアイランドとカーアイランドについてはフォローの風と位置付けられる。九州からの輸出が多い品目は、第一位が半導体などの電気機器、第二位が乗用車・二輪車、第三位が船舶であるが、第一位の半導体については15年前(1995年)のWTO協定で既に多くの地域間で関税ゼロとなっているのでTPPの直接的な影響は大きくはない。最終商品としての家電製品(アメリカが平均5%の関税をかけている)を輸出しているのは大分のキヤノンなど少数である。むしろプラス効果が大きいのはカーアイランドである。トヨタ自動車九州も日産九州も輸出先の主力は米国なので、急速に米国でのシェアを高めている韓国車との競争を考えるとTPPのメリットはあると言える。もっとも、米韓FTA署名を済ませている韓国だが、国会の承認を巡って大混乱しており、今日開催される本会議で強行採決される見通しである。また、乗用車の米国輸出の関税率は2.5%に過ぎないので、今の円高が是正されることの方が影響は大きい。九州からの輸出額第三位の船舶については、今でも大型船はほとんど関税ゼロだが、中・小型船はTPP交渉に参加しているマレーシアやベトナムが二ケタの関税をかけておりメリットはあると言えるだろう。ただし、今まで何度も触れてきたように、輸出主導で達成された戦後最長の景気回復局面(20022月~20082月)にあって、所得水準はむしろ低下しており、輸出が増えれば内需が高まるとは言えない経済構造になってしまっていることを忘れてはならない。
 
で、九州の企業にとってTPPがどの程度喫緊の課題なのかというと、実はあまり優先度は高くないというアンケート結果が先月下旬の西日本新聞の地場企業116社(製造業42社、非製造業74社)へのアンケート調査結果で明らかになっている。
 
「野田政権が優先的に取り組むべき施策は何だと思いますか。あてはまるものを全てお選びください」という問に対して、選択肢は6つ。「震災復興に向けた増税」「円高対策」「TPP参加など自由貿易推進」「法人税率の引き下げ」「電力問題の解決」「その他」。
 
企業アンケート結果は、第1位が「円高対策」(67%)、第2位が「電力問題」(53%)そして第3位「法人税率引き下げ」(45%)と続いた後で、4番目に「TPP参加」(27%)がきている。TPPを優先すべきとの回答企業数は、「電力問題」を選択した企業の半分でしかない。しかも製造業だけ取り出すと全社TPPを掲げているかというとそうでもなく、製造業、非製造業ともに同じ回答割合27%である。
 
アンケート結果からは、「円高対策や電力問題などの足下の景気対策をきちんとやってよ」という声が聞こえてくる。特に、電力問題については、玄海原発4号機が来月中旬に定期点検に入るので、かつて九州の電力需要の39%を担っていた原発が完全ストップし、冬の需要期には節電で十分対応できる計画だが、企業の多くが心配しているのは今度の冬ではなくて来年の夏の電力需要である。
 
もう1つ企業が心配している電力問題は九州電力株の安値である。中小企業も内部留保は預金以外に有価証券でも運用しており、電力株は短期のキャピタルゲインこそ少ないものの安定株として活用されてきた。ところが、年初に2,000円弱だった九州電力の株価が1,000円割れ目前にまで下落しており、それが企業のバランスシートに影響し始めている。そういった意味からも電力問題への関心が高くなっているのである。
 
今週末のAPECが終了するとTPP関連報道も少なくなり、1年後の今頃は、「そう言えば昨年の今頃はTPPで大騒ぎしていましたが、1年経っても合意に至りそうにありませんねぇ。そうこうするうちに今年はASEAN+6が話題になっていますが、こちらはどうでしょうか」という話なっているのかもしれない。5年前に始まった農業大国オーストラリアとのEPA交渉が進展しないまま今回のTPP交渉に参加することになったように。
 
果たして今日の夕方、野田総理はどんな国家戦略ビジョンを語り、その中でTPPの必要性と日本の立ち位置についてどのように語るのだろうか。大いに注目したい。

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2010年国勢調査結果にみる過疎過密格差

2011年10月27日
 昨日14時に昨年10月に実施された5年に1度の国勢調査の基本調査結果が公表された。
 
九州7県の人口は1,320万人で、10年連続で減少し(ピークは2001年)、前回の1,335万人から15万人弱減少した。
 
県別人口増加率をみると、47都道府県のうち9都府県のみが人口増加で(前回は15都府県だったが京都府、兵庫県、静岡県など6府県が減少に転じた)、福岡県は0.5%増で全国第9位。福岡県以外の九州6県は全て前回調査に続いて人口は減少し、その減少のテンポは加速しているため、福岡県とその他6県の格差は広がっている。とりわけ長崎県が▲3.5%で全国42位、鹿児島県が▲2.7%で35位(いずれも県本土が半島で構成されており、離島を多く抱える県)。
 
市町村別にみると、前回は全国2,217市町村中612市町村(3割弱)が人口増だったが、今回は全国1,728市町村中、人口が増加したのは4分の1弱(407市町村)に過ぎない。九州については233市町村中17%に相当する40市町村が人口増加で8割強の市町村は減少となった。
 
九州で人口が増加した市町村についてみると、共通点がある。
 
九州の第1位は、前回同様、熊本県菊陽町で16.3%増(全国でも第4位。前回は14.4%増で全国第12位)。第2位は、福岡県粕屋町で11.4%増(全国でも第13位と前回の43位から躍進)。第3位は、志免町で7.4%増。第4位は熊本県大津町の7.3%増。第5位は熊本県西原村で6.9%増。菊陽町、大津町、西原村は、いずれも熊本市のベッドタウンで高速道路のICと空港に近い。そして粕屋町と志免町は福岡市のベッドタウンで九州縦貫道や福岡都市高速道路のICと福岡空港に近いといった具合に、上位ベスト5は、県都の周辺に位置している。
 
6位以下をみると、6位鳥栖市(クロスポイント)、7位久山町(粕屋郡)。8位は熊本県菊池郡の合志町と西合志町が合併してできた合志市(こうしし)。合志市は、第1位の菊陽町と第4位の大津町に隣接している熊本市のベッドタウン。9位の那珂川町と10位の新宮町はともに福岡市のベッドタウン。第11位の大宰府市までが5%以上の増加率となっている。これらは全て、福岡市か熊本市のベッドタウンとしてくくれる。ちなみに福岡市の増加率は4.5%13位(城南区だけは僅か4人ながら、人口は減っている)。熊本市は0.9%増で33位。こう見てくると、都市が外延的に拡大を続けている様子が良く分かる。それをビジネスチャンスととらえて積極展開している典型例が「郊外型大型店」である。
 
九州の総人口が減少し続ける中で、5%以上増加する市町村があるということは、「過疎と過密」の格差が一段と広がったことを意味する。
 
人口減少率の大きい市町村をみると、10%以上減少した市町村が13あり、長崎県の小値賀町、新上五島町、対馬市、鹿児島県の奄美大島の大和村、大隅半島先っぽの南大隅町と錦江町、宮崎県の中山間地域の日之影町、諸塚村、椎葉村、熊本県球磨村と五木村、大分県の離島の姫島村そして福岡県の山間部に位置する東峰村(小石原村と宝珠山村が合併)である。いずれも高速道路や新幹線とは縁がない。しかし、そんな島での人の営みがあるからこそ領土・領海・領空は守られ、山間部に人が住んでいてこそ自然環境は保全されている。都市住民はそのことを忘れてはならない。
 
今回の国勢調査結果でもっとも注目したいのは、全国の人口が0.2%と僅かながらも増えたことである。総人口のうち外国人を除く日本人の人口は0.3%減少したものの、外国人が5.9%増加したことが寄与している。今回の国勢調査実施前には総務省自身が「本格的な人口減少社会となって初めての調査」と言っていたが、人口増加という結果である。
 
ところが、驚くべきことは、外国人165万人のうち105万人は調査票に国籍を記入していないのである。国勢調査結果の信ぴょう性が大いに気になるところだ。未回収率(調査票を回収できない世帯の割合)は1995年が0.5%にとどまっていたのに、2000年は1.7%2005年は4.4%と高まってきており、昨年の国勢調査の未回収率はまだ発表されていないが相当高まっていると予想される。2005年時点では700億円規模の予算(市町村職員の残業手当は含まれていない)と85万人の調査員が投入されたほどの5年に一度のビッグプロジェクトだが、東京都の未回収率は突出して高く13.3%にも達する(ちなみに福岡県の未回収率は6.1%と九州では突出して高い。他県は12%台)。通勤依存率で地域間結合度を測ったり、コーホート要因法で将来人口を推計したりする際に貴重な基礎データを提供し続けてきた国勢調査だが、事後的に「必要な補足訂正」がなされているとは言え、果たして正確さの程はいかがなものだろうか。

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2つの都市の明るいニュース

2011年10月20日
 先週末から今週にかけて、九州の2つの都市に関するちょっと明るいニュースが発表された。1つは福岡県内で唯一の赤字団体だった大牟田市が昨年度の普通会計決算で10年ぶりに実質収支の黒字化を達成したことであり、もう1つは、熊本市の来年41日からの政令指定都市移行が閣議決定されたことである。
 
まず、大牟田市10年ぶりの黒字。県によると、資料が残っている1953年度以降、県内市町村で赤字団体が出なかったのは初めてという。
 
福岡県内市町村での財政事情と言えば、20年前に全国で財政悪化の象徴として「西の赤池、東の夕張」と言われていたように、福岡県赤池町(現福智町)が1992年から2001年の10年間、財政再建団体に指定され、鉛筆1本買うのにも国にお伺いをたてねばならず、町営施設の使用料金や町営住宅の家賃、水道料金などが軒並みアップし、簡単な道路の補修工事や公園の草刈りは役場職員自らが汗を流し、役場では夏でもクーラーを付けなかった。一方、20年前から財政危機がささやかれていた東の夕張は2007年に財政再建団体に移行して、市長の月給は破綻前の862,000円から現在の259,000円へ、市民税が個人均等割3,000円から3,500円へ、軽自動車税が1.5倍に、施設使用料も1.5倍となっている。近年で財政が破綻したのは赤池町と夕張市の2つだけだが、共通するのは「旧産炭地」である。
 
福岡県で「旧産炭地」と言えば、筑豊以外では大牟田である。14年前の1997年に三井三池炭坑が閉山した大牟田市が生活保護費などが膨らんで2001年度から赤字団体に転落し、一時は第二の赤池かともささやかれたりしたが、あの手この手の工夫で第二の赤池は避けられることとなった。職員給与を複数年にわたって9%カットしただけでなく、1,117人の職員数を3年間で135人(12%)削減し、九州で唯一、軽自動車税の標準課税を1.2倍に引き上げるという市民の負担増にも踏み込んだ成果である。
 
大牟田市は「聖域無き行財政改革に取り組んできた成果」であると胸を張るが、実は財政状況が好転しているのは大牟田市だけでなく、全国的に地方自治体の財政事情は好転している。
 
総務省は先週末(14日)、全国の都道府県と市区町村の2010年度決算に基づき、各自治体の財政健全度(速報)を発表した。発表された指数は地方財政健全化法に基づく健全化判断比率。四つの指数で構成され、市町村の借金残高が現在の財政規模の何%にあたるかを示す「将来負担比率」や、単年度の借金返済額が財政規模の何%になるかを示す実質公債費比率などがある。指数ごとに基準があり(収入の中で借金の返済額が占める割合が25%を超えたり、将来負担する借金の割合が350%を超えたりするなど)、超えると、財政健全化計画の策定や外部監査を義務づけられる早期健全化団体に指定され、さらに悪化すると財政破綻の烙印を意味する財政再生団体になる。
 
財政破綻の懸念がある「早期財政健全化団体」(イエローカードに相当)は6市町村(九州には無し)で、09年度の13市町村からほぼ半減し、新たに同団体となった市町村はなかった。国の管理下で再建する「財政再生団体」(レッドカードに相当)には北海道夕張市が引き続き指定されたままだ。
 
早期財政健全化団体がほぼ半減したことについて、総務省は、国から市町村への地方交付税が前年度より7,900億円(10.4%)増え、歳入に余裕が出たことが収支改善の一因とみている。従って、大牟田市の黒字化には、自助努力だけでなく、地方交付税が増えたことも寄与しているわけで、行財政改革の手を緩めるにはまだ早いということになる。
 
もう1つの明るいニュースは、熊本市の来春の政令市移行が決定したこと。九州では、1963年の北九州市、1972年の福岡市に次いで40年ぶり3都市目。全国では20番目。
 
熊本市は九州の地理的中心(九州のへそ)に位置し、明治期以降は陸軍第六師団が置かれ、逓信局や財務局、農政局、通産局などの官庁の出先機関が集中する全国屈指の行政都市として栄えてきた。しかし、戦後は「産業都市=北九州」や「商業都市=福岡」に人口や都市機能集積面で後塵を拝してきた結果、九州№3都市としてのポジションが定着してしまった。今年の九州新幹線全線開業効果も終着駅=鹿児島市に勢いを奪われてしまっている。政令市に移行すれば、企業の熊本支店長の格が上がったり、全国規模のイベント・コンベンションの誘致もしやすくなるなど1年遅れの新幹線全線開業効果が発揮されるかもしれない。ただ全国的には政令市と道府県の二重行政の関係は必ずしもうまくいっているわけではなく、大阪府と大阪市、堺市といった2つの政令市を再編する「大阪都構想」や愛知県と名古屋市の行政を一本化する「中京都構想」、新潟県と新潟市による「新潟州構想」などが提唱されている。熊本市の政令市移行を熊本県は全面バックアップしてきたが、果たして政令市に移行してからも「県」と「県庁所在都市」の関係がうまくいくかは未知数である。熊本市には政令市移行のもう1つ先の「九州のへそ」らしい大都市のあり方を提言してもらいたい気がする。それが「道州制の州都」(マスタープランには書き込んで議会の承認も得ている)ならば、積極的に仕掛けても良いのではないか。
 
年長の熊本市民の多くが、近年の福岡一極集中について語るとき、今年100周年を迎えた九州(帝国)大学の誘致活動を100年前にほとんどやらなかったことを理由に挙げる。誰もが、九州に1つの帝国大学の設置なら、熊本以外は考えられないだろうと安心しきっていた当時を悔しがるのである。
 
100年後の「九州のへそ」を見据えた政令市誕生に期待したい。

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