オーバーストアとなる農産物直売所
2008年5月29日
先日、鹿児島県日置市の江口蓬莱館という農水産物直売所を訪ねたところ、駐車場は満車でレストランには行列ができており、地方では相変わらずの農産物直売所ブームが続いていることを確認できた。でも、現在の人口減少社会は、胃袋減少社会でもある。しかも、食べ盛りの若年層の数は減り、カロリー控え目の高齢者の割合が高まっている。摂取カロリーでみた場合の食べ物に関する市場はとっくの昔に飽和しており、国内市場だけに限れば、どこかがブームになると他が割を食うというマイナスサム競争がフード市場で展開されているのである。そして、これまで増加し続けてきた農産物直売所に変化がみられるようになった。
農産物直売所の歴史を振り返ると、以下のようになる。
農産物直売所が増え始めたのは1990年代に入ってからである。今でこそ、消費者サイドが安心安全な食材を求めるようになって直売所が増えているものの、本来は、供給者サイド、すなわち農家の経営難が直売所増加の直接的な理由である。当時、中国産などの輸入農産物が押し寄せて農家の家計が厳しさを増していた。家計が厳しくなると一番敏感に反応するのは女性・主婦である。そこで、農村女性は、収入を補う手段として常設市を開設したり道の駅に併設販売所を開設したのが直売所ブームのきっかけである。卸売市場向けには、大量生産・大量出荷が求められていたが、高齢化と担い手不足で対応できなくなった農家にとって、多品種少量出荷なら高齢者でも対応できたし、卸売市場に出荷する時のように、他産地と競合して価格が低く抑えられる心配もなかった。農業の世界も、工業の世界と同様に、「規模の経済性」を追求する産業社会から「範囲の経済性」を追求する社会へと変化してきたことになる。
そんな直売所の数は、全国的にはここ数年年率10%近くのテンポで増えており、1万2,000か所はあると言われている。売上高もうなぎのぼりで今年は1兆円ビジネスになるのではないかとの見通しもある。
だが、一足先に直売所ブームを迎えた地方では、JAや大手スーパーも入り乱れて直売所のオーバーストア現象が見られるようになった地域も出てきた。その代表例が九州最大の激戦区・福岡都市圏である。
福岡県内の直売所の売上高は、2000年の68億円から2007年の200億円へと増加している。売上高の増加と対照的なのが直売所の数で、2004年3月末の259か所をピークとして減少に転じ、2007年3月末には230か所へと減少した。店舗数が減少しているのに売上高が増加しているということは、中小の直売店が淘汰され、大規模店舗が増えてきたことを意味している。
前原市のJA糸島が昨年4月に開店した直売所「伊都菜彩(いとさいさい)」の敷地面積は2haで売場面積は1,300㎡(全国平均の7倍)。400台分の駐車スペースがある。来店客数は1日平均平日で2,000人、土日は3,300人。年間売上高は当初計画の15億円を達成した模様である。その一方、市内の直売所数は4~5年前のピーク時から3か所減っている(現在、11か所)。
同じく昨年オープンした宗像市の「道の駅むなかた」も敷地面積1.4haと大きく、来店客数は1日平均平日で6,400人。急遽、国道の拡幅工事と第二駐車場の確保で対応した。
その他にも、朝倉市や筑前町にも最近大型直売所がオープンし、久留米市や宮若市でも年間数億円の売上げを狙う直売所の建設計画がある。
直売所流通戦争となれば、ショッピングセンターも黙って見ているはずがない。福岡市内の大型ショッピングセンターは、昨年、大分県大山町農協の「木の花ガルテン」直売所を店舗内に誘致した。日田市から毎朝野菜が届く午前10時半頃には、買い物客でごった返すほどの人気だ。
経済合理性を追求した大型化やナショナルブランドの陳列によって、直売所本来の「地産地消」や「生産者の顔が見える」といった地域の個性が失われないようにしたいものである。
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