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2016年1月

無人島を取得したハウステンボス

2016年1月28日

 ハウステンボスが元気だ。
 先日(118日)、ウォーターフロントリゾートとしては日本最大の面積を誇る(総開発面積は152ヘクタール(461干坪)。現在の東京ディズニーリゾート(ディズニーランド+ディズニーシー)とほぼ同規模。単独テーマパークとして、連続した敷地面積では、群を抜いて日本最大である)ハウステンボスが、南西約6キロの大村湾に浮かぶ無人島、長島(西海市)を複数の地権者から買収したことを明らかにした。九州で「長島」と言えば、八代海と東シナ海に挟まれた鹿児島県最北端でブリの養殖や馬鈴薯の一大産地として知られている人口1万人の大型有人島を連想するが、HTBが今回買収したのは、大村湾内で長さが300m強、幅100m強の小さい無人島だ。広さ約39千平方メートルの島を1年ほどかけて開発し、来年にも新しい施設をオープンさせる方針というが、具体的な内容は公表されていない。他の無人島についても取得を検討中で、大村湾に浮かぶ島への事業拡張を進めて、複数の島をHTBと船で結び、島ごとに子ども向け、ファミリー向けなどのテーマ性を持たせたリゾートにしたいと言う。ちなみに、さだまさしさんは大村湾内の詩島(うたじま、旧寺島)を所有していることで知られている。
 インフラの整備をどうするのか良く分からないが、今回のHTBの無人島取得・開発話は、2年前(2014418日、ブルームバーグ報道)から囁かれていた。その時の澤田秀雄社長の話では、おもちゃの銃を使って撃ち合うサバイバルゲームができる場所などを確保するのが目的で、「ここに来たらカジノから競馬からスマホゲームから、ありとあらゆるゲームが楽しめるアジア一のゲームの王国を狙っている」とのことだった。
 大村湾は極めて閉鎖的な湾で波静かな大村湾全域の島々がHTB化したら、それはそれで面白いテーマパークになるのではないだろうか。
 今では「完全復活」と呼んでも良いくらいのHTBだが、その歴史をおさらいすると以下のようになる。
 24年前の19923月に「千年の街づくり」を目指して開業したHTBは、1990年代中盤に「東のTDL、西のHTB」と呼ばれたこともあったが、2000億円を超える初期投資額が経営の重荷となり、黒字を達成できず、入場者数も1996年度の380万人をピークに減少を続け、2000年度に300万人を下回り、オープンから11年目の20032月に会社更生法の適用を申請し、事実上、経営破たんした。その時の負債総額は2,300億円である。その後、野村プリンシパル・ファイナンス(野村ホールディングスのベンチャーキャピタル)が支援企業となったが、入場者数は減少を続け、2005年度には200万人を下回り、その後、やや戻したものの2009年度にはピーク時の4割にも満たない141万人にまで落ち込んだ。再び破綻、閉園かと思われた2010年、白馬に乗った王子様、救世主が現われた。HISの澤田秀雄氏だ。ただ当時の記憶を振り返ると、澤田さん自身は乗り気ではなかったのを、佐世保市長と九州の財界(福岡経済界(九州電力、九電工、JR九州、西日本鉄道、西部ガス、福岡地所など)などでつくる「検討チーム」)が強引に掴んで離さなかったというのが正しい。
 HISが経営を引き受けた途端、誰もが驚いたのが、1992年の開業以来、黒字を計上したことが一度もなかったのが、半年間の変則決算とはいえ、19年目にして初めて経常黒字を計上するに至った。(もちろん、金融機関の債権放棄や佐世保市からの固定資産税相当額の再生支援交付金初年度分の8億円があったことも大きい。)黒字転換すると、利益を投資に回し、次の一手を打ち続けられるので、悪循環が好循環に変貌するという経営再建のお手本でもある。冬のイルミネーションイベント「光の王国」や季節ごとの花で園内を彩る「花の王国」が代表例だが、昨年7月には、接客、案内、ポーターをロボットが担うホテル、その名も「変なホテル」が開業した。先日、東京から単身赴任してこられた方と話をしていたら「九州に来て是非乗ってみたいのがJR九州の「変な列車」で、泊まってみたいのがHTBの「或るホテル」です」とおっしゃっていて、ホテルと列車が逆になっていたが、九州観光への注目度を高めるのに一役買っているのは間違いないようだ。
 ハウステンボスで注目したいのは、イベントやアトラクションといったエンタメ機能・アミューズメント機能だけでなく、V字回復するきっかけとなった社内の意識改革だ。
 20104月、澤田氏が社長就任時に949名の全社員に呼びかけたのは、「みんなで考えて、みんなで苦労して、みんなで喜ぼう」ということだった。特にウルトラCの再建策があるわけではない。
 ところが、具体的に社員全員に要求したことは3つ。1つは、「バックヤードも含めて朝の10分間、みんなで掃除をしてください。」2つめは、「苦しくても明るく元気に楽しく仕事をしてください。」ここでも奇抜な要求があるわけではないが、3つめの要求がちょっと変だ。「黒字にするために経費を2割削減したいので、皆さん歩くスピードを2割速くしてください。1.2倍のスピードで仕事をすれば赤字は解消されます」。そして「2割歩くスピードを速くした」おかげでその年の販売管理費は前年同期比25%減少、65千万円削減され、いきなりの黒字計上という結果を出した。社員にシンプルな要求をするというマネジメントは、今の経営者ももっと見習って良いのではないか。
 それにしても、無人島という「残された自然」と「適度な隔離感」をどういう方向に生かすのか、楽しみにしたい。

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停滞する百貨店と駅ビルとの流通戦争

2016年1月21日

 日本百貨店協会によると、2015年の全国の百貨店売上高(全店ベース)は、前年比0.6%減の61742億円だった。
 前年割れは4年振りだが、僅か0.6%のマイナスなのでほぼ前年並みと言って良い。これに対する評価としては、「昨年終盤の暖冬で冬物衣料が全く振るわなかったのに前年並みを維持したのは大したものだ」というプラス評価が出来る一方、「爆買いと呼ばれるほどインバウンド消費が活発だったのに売上が伸び悩んだのは百貨店業界の限界じゃないか」というネガティブな評価も出来る。
 ここで、昨年の百貨店での衣料品部門の対前年減少額を計算すると▲781億円。一方のインバウンド観光客による百貨店での消費増加額を計算すると+1,214億円(20151,944億円-2014730億円)。従って、衣料品の売上減少分をインバウンド消費増加分が上回っているにもかかわらずトータルで前年並みということは、依然、百貨店は厳しい状況が続いているのを外国人観光客が救っているという図式が見えてくる。
 それにしても全国の百貨店(82238店舗)の2015年年間売上高が6兆円台前半というのは寂しい。25年前の1991年バブルのピーク時期には、(113268店舗で)97千億円と10兆円産業目前まで行っていたのに、10年前の2004年(98285店舗)に8兆円を下回り、リーマンショックの翌年2009年に7兆円を下回り、2011年東日本大震災の年を大底として下げ止まっているとは言え、日本の多くの経済指標がリーマンショック前の水準に戻している中、百貨店は6兆円台前半で低迷が続いている。また、経済産業省の調査によると、2009年に百貨店販売額に並んだ「ネット通販市場」が、2013年には11兆円を超えて、おそらく今では百貨店の2倍の売上に達していることを考えると、今後もその差は開く一方だろう。
 全国の百貨店がそのような厳しい状況にあるなか、昨年の九州の百貨店売上高は3.2%の大幅減少である。これは、20149月の閉店まで年商70億円の沖縄三越が営業していたことや、昨年20152月末で年商100億円を上回っていた熊本市の県民百貨店が閉店したことの影響が大きく、同一店舗ベースで見ると、「安心してください。ほぼ前年並み、±0%ですよ。」ただ、福岡市の4つの百貨店が岩田屋や福岡三越、博多大丸など既存店のリニューアルが効いて+0.9%と一応増加したのに対して、福岡市以外の九州の百貨店は▲0.9%10年連続減少しており対照的だ。インバウンド消費が多かった分だけ福岡市が有利だったということだろう。もっとも、全国主要10都市(札幌、仙台、東京、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸、広島、福岡)の中でも増加したのは東京、大阪、福岡の3都市のみで、しかも大都市を除く全国8地区は全て減少したが、九州は最も減少幅が小さいので、九州の百貨店は全国的に見ると相対的に健闘していると言える。
 そんな九州の百貨店が、苦々しく思っているのか、それとも別にどうってことは無いと思っているのか定かではないが、今週月曜日、日本郵便(JP)がJR博多駅前の博多郵便局跡に開業する商業ビル「KITTE博多」11階建ての開業日を今日から丁度3か月後の421日木曜日と発表した。九州初出店の約70店を含む約180店で構成。全体で約2000人の雇用を見込む。KITTE博多の1階から7階に入る核テナント「博多マルイ」は、首都圏や関西で若者向けファッションを中心とした商業施設を展開する丸井グループの九州進出1号店となるが、今回はJR博多シティとの違いを打ち出すために飲食、雑貨、サービスの比率を高めて、アパレルの比率を約3割にまで下げるとのこと。
 さらに博多駅周辺では、KITTE博多開業と同じころに開業するオフィスビル=JRJP博多ビル12階建ての地下1階から地上2階には飲食店などのテナントが入居し、さらに現在仮設営業している博多郵便局跡地には2018年春に地上13階建てのオフィスビル建設計画が明らかになったが、その低層階にも商業テナントが入居するというので、博多駅界隈は商業機能だけでなくオフィス機能も飛躍的に高まることになる。従来は天神界隈が、商業機能とオフィス機能の2つの機能が揃っていたのに対して、博多駅界隈は商業機能に特化していたのが、一気にオフィス機能も強化され、2020年には地下鉄七隈線延伸も計画されているので集客力は一段と高まるだろう。博多駅周辺には現在決定的に不足しているホテル新設計画も相次いでいるので、これからの5年間で変貌を遂げることは間違いない。
 天神VS博多、岩田屋三越・大丸VS博多阪急、西鉄VS JR、パルコVSマルイ、ソラリアステージVSアミュプラザ、ロフトVS東急ハンズ、天神横の福岡市役所VS博多駅裏の国の合同庁舎…。最後のは余計だが、多様な流通戦争は、消費者にとっては楽しみなことだけど、流通業界で勝ち組なのは現時点では百貨店とは対極に位置する「コンビニとネット通販だけ」という状況を考えると、福岡市の人口が毎年1万人ずつ増えているとは言え、どう考えてもオーバーストアのような気がする。
駅ビルや駅周辺開発は、これまでも鹿児島中央駅や大分駅で見られたが、今後も2021年春開業予定の熊本駅ビル、2022年度の長崎駅ビル再開発構想が控えており、中心市街地VS駅ビルの流通戦争はまだまだ続く見通しである。中心市街地の中核である「百貨店」の次の一手を見てみたい。 

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多様化する自治体の地域おこし・PR戦略

2016年1月14日
 近年、自治体の地域おこし戦略やPR戦略が活発化している。民間の独自の取組をサポートするものから、自治体が直接税金を投入してPRするものまで様々だ。
 
10年ほど前から話題になったのは、①昨年第10回目のB-1グランプリが開催された「B級グルメ」(厳密にはB-1BA級に対するB級ではなくて、ブランドのB)や、②現在、東京都の500組を除くと全国46道府県に652組存在する(日本ご当地アイドル活性協会)といわれる「ご当地アイドル」。福岡からも「Rev. from DVL」(レブ・フロム・ディーブイエル)やHR(エイチアール)、LinQ(リンク)といったグループがメジャーデブューした。③そして熊本県営業部長の「くまモン」に代表される「ゆるキャラ」。昨年浜松市で開催された「ゆるキャラグランプリ2015」には、全国から過去最高の1727体の参加があったという盛り上がりぶり。2011年に「くまモン」がグランプリを受賞した時のエントリー数349体から年々増え続けている。ひと頃は、こういった具合に「B級グルメ」「ご当地アイドル」「ゆるキャラ」の3つが地域活性化の三種の神器と呼ばれた。
 で、最近、自治体が力を入れているのが「ふるさと納税」と「アンテナショップ」と「自治体PR動画」の3つだ。
 先ず、ふるさと納税については、本年度(昨年4月)から「全額控除されるふるさと納税枠が約2倍に拡充され」、「ふるさと納税を行う自治体の数が5団体以内であれば、控除に必要な確定申告が不要になるという「ふるさと納税ワンストップ特例制度」が始まったことで、より一層増えている。総務省のまとめによると、2008年度に5万件、81億円から始まったふるさと納税制度はしばらく低迷していたが、東日本大震災後の2011年度に10万件、121億円へと増加し、2013年度には自治体のお礼の品つまり特典商品合戦が激しくなって43万件、145億円、2014年度は205万件、389億円へと増加した。そこに来て本年度からの制度拡充によって201549月には、僅か半年間で前年度の1年間分を上回っている(228万件、454億円)。とりわけふるさと納税が最も多いのは年末なので、おそらく本年度は最終的に昨年度の34倍に増えるのではないかと思われる。
 本年度上半期における市町村別寄付額のベスト20を見ると、寄付額が全国で最も多かったのは、昨年9位だった宮崎県都城市。九州からは第4位に昨年日本一だった長崎県平戸市、9位に福岡県久留米市、12位に昨年4位の宮崎県綾町、13位に昨年2位の佐賀県玄海町、18位に昨年8位の佐賀県小城市、19位に佐賀県伊万里市といった具合。上位20自治体のうち7つが九州、しかも佐賀県から21町が上位に食い込んでいるのが面白い。ブランド総合研究所が毎年発表している47都道府県魅力度ランキングでは46 位が定位置となりつつある佐賀県だが、「県」ではなくて「市町村」となると大した人気だということが分かる。
 では、どの程度の税収効果があるのかみてみると、例えば、本年度上半期堂々1位となった都城市が本年度半年間で受け入れたふるさと納税額は133300万円。人口17万人の都城市の一般会計予算の過去3年間の平均値は766億円なので、13億円のふるさと納税額は2%程度なので大したことは無いのだが、昨年度第4位だった綾町の場合、944百万円の寄付額は、本年度一般会計当初予算額50億円の2割弱の税収増に匹敵するから大したものだ。もっとも、お礼の品の買取価格や郵送料、手続きに要する人件費などで半分程度は出ていくので、実質的には1割の税収増だろうか。それでもすごい。
 もっとも、特産品を贈るという特典自体は、地域の魅力を全国に発信し、ファンを増やす効果があるので、確かに意義はあると思われるが、課題も少なくない。特典目当ての寄付は少額寄付にとどまる傾向があり、件数が多いほど仕入や配送に経費がかかり、財政上の効果は薄いとの指摘もある。一部の自治体は、5千円の寄付に対して2千円相当の地元特産品を千円の送料を負担して送っている。それでもふるさと納税誘致競争が続くと、不毛な特典合戦に陥らないか心配になる。特典合戦になると、財政力の豊かな大都市が有利なので、格差は拡大してしまう。何のためのふるさと納税だったのかという本来の目的が見失われてしまいそうだ。一部の投資家からは、「株主優待よりもお得」という評価の声が聞かれるようになり、ちょっとした節税対策的な要素を帯びてきた「ふるさと納税」だが、地域に貢献したいという納税者の純粋な思いに応えていく努力を自治体は忘れてはならない。
 もう1つ盛り上がりを見せているのが、沖縄県の老舗「銀座わしたショップ」が有名な東京で展開する「自治体アンテナショップ」である。自治体アンテナショップとは、単なる観光物産案内所ではなく、地域の多様な情報を受発信するともに、特産品販売施設や飲食施設等を置いている店舗のこと。九州からは、各県が中心となった「長崎よかもんショップ・四谷」と「銀座熊本館」「大分県フラッグショップ「坐来大分」」「新宿みやざき館KONNE」「かごしま遊楽館」がある。
 一般財団法人地域活性化センター(東京)がまとめた平成 27年度自治体アンテナショップ実態調査報告によると、店舗数は2008年の36店から19店増えて55店で過去最高となり、年間売上が1億円を超える店舗が29店(全体の54%)となり、2009年度の調査開始以来最高となっている。また、最近のインバウンド増加に対応して、外国語案内パンフレットを設置したり、WiFi環境を整備したり免税店になるショップが急増するなど、外国人観光客への対応も急ピッチで進みつある。さらに、地方移住の相談窓口の設置も徐々に増えてきた。
 「ふるさと納税」「アンテナショップ」に続き、最近注目されるようになった自治体のPR戦略が、「自治体PR動画」だ。古くから、地方自治体が観光PRの動画をつくることは珍しくなかったが、これといった特徴が無くて、だいたいご年配の知事さんが出てきて「この素晴らしい自然と文化を…」という眠くなるようなものがほとんどだった。そこに一石を投じたのが、2011年の「うどん県。それだけではない香川県」というPR動画、翌2012年には「おしい!広島県。おしいは、おいしいの一歩手前」というPR動画が続いた。九州では2013年、2014年と「おんせん県」をPRする爆笑動画で話題になった大分県が先がけ。昨年10月にはお湯の中でシンクロナイズドスイミングチームが踊る動画「シンフロ」が話題となった。昨日You Tubeで見たら再生回数は113万回を超えていた。さらに、1年ちょっと前の公開以降、You Tubeで再生回数200万回を超える大ヒットとなったのが、鹿児島県のPR動画だ。タレントさんは出てこないし、BGMもナレーションも無い。虫の声や波の音、川のせせらぎなどはきちんと聞こえる。とりわけ「ドローン」を使うことによって、地元の人たちでさえ入ったことのない場所や見たことのない角度から映像が映し出されるので、何度も行ったことのある観光スポットでも、見ていてとにかく楽しい。その第2弾が昨年7月に公開され、こちらも好評。動画を手掛けたのは、第1弾に続き福岡市在住の映像作家だ。さらに、宮崎県小林市は、移住促進PRムービー「ンダモシタン小林」を昨年8月にユーチューブで公開して注目された。フランス人がフランス語のような西諸県郡の方言=にしもろ弁で地域を案内する設定が話題となった。「じょじょん、よかとこ。住んみゃーん」。再生回数を昨日調べたら179万回を超えていた。その小林市では、PR動画のヒットを受けて移住促進サイトの閲覧者が従来の8倍に増え、空き家バンク紹介サイトの閲覧者は10倍になったという。
 従来の地方公務員の基本的業務スタンスは「指示待ち」で「横並び」を重視してきたが、これからの地方公務員には「創意工夫」と「オリジナリティ」が求められる時代を迎えたことを示している。自治体がそこまで税金を投入して地域をPRする必要があるのかといったご批判の声が一部にはあるが、自治体の新たな地域おこし戦略・PR戦略をしばらくは楽しみたいと思う。

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円安ミニバブルと2016年の九州経済

2016年1月7日

 新年あけましておめでとうございます。
 今年の九州経済見通しの前に、年明け早々騒がしくなっている株式市場と為替相場について考えてみたい。
 東京証券取引所のある兜町の干支にちなんだ格言は「申酉騒ぐ」となっている(「辰巳(たつみ)天井、午(うま)しり下がり、未(ひつじ)辛抱、申酉(さるとり)騒ぐ。戌(いぬ)は笑い、亥(い)固まる、子(ね)は繁栄、丑(うし)はつまづき、寅(とら)千里を走り、卯(うさぎ)は跳ねる」)。昨年末の株価は、19,033円、昨日6日の終値は18,191円と、年明け早々中国発の世界同時株安で、一週間で842円も下落し、まさに「騒ぐ」年が幕を開けた。
 そこで、具体的に昨日の終値を2年前と比べてみるとどうなっているのか。201416日の終値は15,908円、昨日201616日の終値は18,191円。2年間で日経平均株価は12.5%も上昇している。内部留保を株式で運用しておれば、当然、自社の業況とは関係なく12.5%の良く言えば「含み益」、表現を変えれば「不労所得」が生み出されたことになる。「さすがアベノミクス」ということになっているのだが、この日経平均株価を「円」ではなく「ドル」に換算すると、果たして2年間でどの程度株価は上昇しているのだろうか。
 201416日の為替相場は1ドル104円なので、当時の15,908円という株価は、割り算をすると153ドルだったことになる。で、昨日昼間の為替相場は1ドル118円台後半で推移していたので、ざっくりと119円として昨日の終値の18,191円を割り算すると、なんと、2年前と全く同じ153ドルということになる。2年前の153ドルが昨日も153ドル。つまり、ドルに換算した日経平均株価は2年前と何も変わっちゃいない。ということは、世界の基軸通貨であるドル目線で日本の株式市場を評価すると2年間ほぼ横ばいで推移していたことになる。要するにアベノミクスが始まって以来の日経平均株価の上昇のかなりの部分は「上場企業の本業の成果」ではなく、アベノミクスの旧三本の矢の1本目である「異次元の金融緩和」がもたらした「円安」で説明できることになる。
 あるいは、円安で輸出関連企業の収益が増えるとの期待感から、輸出関連株が買われて、それが株高の1つの要因になったと言われている。確かに日本の輸出額は、2013年の70兆円から昨年の約76兆円へと増えている。ところがドル換算してみると、6730億ドルから6390億ドルへと輸出はむしろ減少している。輸出主導型大企業製造業の経営努力によって輸出数量が増えているのではなく、円安で見た目の輸出金額が増えているに過ぎないのだ(貿易統計によると、輸出数量はむしろ減少している)。
 要するに、株高も輸出増も日本銀行の異次元の金融緩和がもたらした「円安」によるミニバブル的な要因で、かなりの部分を説明できることになる。従って、企業収益が改善しているという報道や、株価が一頃2万円台を回復したという報道を私たちは目の当たりにして、「実感が無いよね」と思い続けてきたのも当然だ。景気回復の実態は無いのだ。「景気がいいよね」と誰もが感じているのは「外国人観光客の爆買いシーン」だが、あれも「円安」によるインバウンド増加のなせる業である。
 従って、政府が企業に内部留保を設備投資に使いなさいと言ったところで、生産活動はそれほど活発になっていないのだから増産のための能力増強投資に踏み切る訳がない。挙句の果ては、法人税をディスカウントするから設備投資をしてちょうだいという状況になってしまった。古い設備の更新投資はするだろうが、能力増強投資は増えないだろう。
 ところで、2016年の九州経済の見通しはというと、素直に考えると、ほとんど全国と同じようにほぼ横ばいで推移するだろう。名目ベースで1.5%、うち物価上昇率が0.5%を占めるので、結果実質的には1.0%成長で「御の字」といったあたりではないだろうか。昨年1年間、財布の中に平均して1万円入っていた方は、今年は150円だけ増えた1150円が財布の中に入るようになるのだけれど、0.5%50円分は物価上昇に食われてしまうので、「今年の1150円では昨年の1100円のものしか買えません」といったところ。それにしても、1%程度の経済成長率のことは、20年前なら「踊り場」や「停滞局面」と表現していたのに、いつのまにか日本人全員が「1%成長」と普通に言ってしまうようになったのが残念だ。
 今年の九州が全国と違って、ちょっとアドバンテージがあると思われるのは2点。
 1つは、マイカー依存度が高い九州の地方都市や郡部にあってガソリン価格の下落が、可処分所得の増加につながること。日本銀行宮崎事務所の推計によると、1リットル30円のガソリン価格の減少は、宮崎県の1世帯当たり家計への年間負担額を2万円程度軽くする効果があるという推計値を公表している。
もう1つ九州にアドバンテージがあるのは、「アセアン共同体」への地理的近接性だ。大晦日のことだったのでほとんど報道されなかったが、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10か国は1231日、ASEAN共同体を正式に発足させた。62千万人の人口を抱える巨大市場を統合する意欲的な試みで、九州からASEAN向け輸出は昨年、過去最高となっている。さらにインバウンドが増えていることからも分かるように、ASEAN各国の所得水準は過去四半世紀にわたって年率5%以上のテンポで高まっているので、「生産拠点」としてだけでなく「消費市場」としての魅力も高まっている。また、ASEANの魅力は、中国やインドといった巨大市場を両睨みできる地理的ポジションにあることも大きい。中国やインドに直接拠点を置く前に、ASEANの出先から中国やインドにビジネスチャンスを見出そうとする動きはますます活発化するだろう。(一方で加盟国間の取り組みには差があり、共同体が本格的に一体化するには時間がかかりそうだ。)
 とまあこんな具合で、総じて昨年ぐらいの景気水準がだらだらと続きそうな気配だが、利上げに踏み切ったアメリカが大統領選に突入するなか、チャイナリスクへの不安や中東情勢の緊迫化など海外動向から目が離せない年となりそうだ。それにしても、政府は本気で来年4月に消費税率を10%に引き上げるつもりなんだろうか。現実を見れば、軽減税率なんかを議論してる場合じゃないでしょう。

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