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2016年3月

リレー方式が決定した長崎新幹線

2016年3月31日

 FGT開発が難航して迷走していた九州新幹線西九州(長崎)ルート、いわゆる長崎新幹線については、昨年12月にも取り上げて、武雄温泉駅で特急から新幹線にバトンタッチする「リレー方式」で7年後の2022年度に暫定開業するしか道はないのではないかという話をしたが、一昨日、それが正式決定した。リレー方式での博多−長崎の所要時間は最速約1時間26分と試算されており、現行1時間48分より22分短縮される。武雄温泉駅での乗り換え時間は、3分説や5分説など諸説あるが、鹿児島ルートで7年間、新八代駅で1年間に100回以上利用していた私にとっては、あれで短過ぎると感じたことはほとんど無かったので3分乗り換えで行けるだろう(一度寝たまま気付かないことがあったが、お隣さんが起こしてくれた)。だが、今の段階では、開発が難航するFGTについては、開業時に一部車両の導入を目指すとされているので、もし実験的にでも走るとなれば、全国の鉄道ファンが押し寄せることは間違いない。ちなみに鹿児島ルートの場合の新八代駅でのリレー方式は2004年から2011年まで7年間続いた。7年間辛抱できたのは、博多−鹿児島中央間が4時間弱から2時間12分の大幅に時間短縮されて、特急時代に比べて八代−鹿児島間の利用者数は驚異の2.28倍に増えたからだ。
 割とあっさりと「FGT方式」ではなく「リレー方式」の導入が決定した理由は、FGTではなくリレー方式に変更されることで必要となる約70億円の追加費用を、佐賀、長崎両県の負担が実質的になくなるよう配慮されたことと、JR九州が保有する並行在来線「肥前山口諫早」間の線路などの鉄道施設を両県に無償で譲渡したこと、③新幹線暫定開業後も肥前山口諫早はJR九州が23年間は運行(当初3年間は、博多肥前鹿島で特急を1日上下計14本走らせ、4年目以降は1日計10本とする)する上に、④肥前山口武雄温泉間の複線化工事も順次進めると合意したためである。
 今の所、これで一応、めでたしめでたしとなっているのだが、多分、鹿児島ルートの並行在来線が第三セクター鉄道となった「肥薩オレンジ鉄道」沿線市町村からは、不公平だとの声が高まってきそうだ。特に特急が止まらなくなっただけでなく、肥薩オレンジ鉄道の維持に躍起となっている阿久根市はどう思っているのだろうか。裏返せば、ここまで地元負担を軽減しなければならないほど、長崎ルートは地元同意を得にくい新幹線ということになる。
 リレー方式決定ということなので、長崎としてはそれへの備えをしておかなくてはならない。一つの研究対象は、2004年から2011年までの7年間続いた鹿児島ルート。鹿児島と博多の間は、3時間40分がリレー方式で2時間12分へ、そして全線開業で1時間12分へと3分の1の移動時間になったわけだが、利用客が大幅に増えたのは、関西や広島岡山との直行便のおかげだ。
 で、今後検討しなくてはならないのは、2022年度にリレー方式でスタートするとして、それ以降の方向性。
1.国が言っているように、暫定開業から3年後の2025年度からはFGTに移行する。しかし、FGTが実現しても、博多-長崎間は、1時間26分が1時間20分に6分短縮されるに過ぎない。しかも、今の段階では、FGTになれば山陽新幹線に乗り入れできるとなっているが、FGTが山陽新幹線に乗り入れることをJR西日本は拒んでいるので(山陽新幹線は最速300km/hなので、Max270km/hFGTが入ってくるとダイヤ編成が厳しくなる(要するに邪魔ということ))、今後どうなるか分からない。FGTのこれまでの開発費は380億円なので、今後も開発を続けるぐらいなら、そのコストをフル規格整備費に振り向けた方が良いのではないかという気もする。ただ、北陸新幹線の敦賀以西でFGTを使う構想があるので、研究開発を止めることもできないのが難しい所。
2.FGTが実用化できなければ、リレー方式が続くことになる。
3.地元で、FGTではなく一気にフル規格で行くべきだという機運が盛り上がる。そうなった時に、全線フル化に伴う追加事業費は5千億円に達して、佐賀県側の負担は750億円程度になるのではないかとの試算もあり、実現へのハードルは高い。
 佐賀県側の費用負担問題を除けば、ベストは誰が見ても「フル規格」ということになるが、果たしてどうなるのか。鹿児島ルートも、混み合っているのは関西や岡山、広島との直行便の「みずほ」や「さくら」なので、本州乗入れできないとなると「無駄な新幹線」で終わってしまうかもしれない。


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地価にみる多様な二極化現象

2016年3月24日
 一昨日、今年
11日時点の公示地価が発表された。
 土地の価格、いわゆる地価は主なデータが年に3回発表される。最初が今回の「公示地価」(調査地点は都市計画区域内の23千地点)で、土地取引の目安となる11日時点のもので毎年3月に国土交通省が発表する。次は毎年71日に国税庁が発表する「路線価」(調査地点334千)で、11日時点で相続税や贈与税の目安となる。最後が920日頃に71日時点での土地取引の目安となる「基準地価」(調査地点は都市計画区域外の林地も含む22千地点)で、都道府県から発表される。主要都市100地区については、四半期ごとの「高度利用地地価動向報告(通称、地価LOOKレポート)もあるがサンプルは少ない。30年前にバブル経済に突入した頃は、11日時点の公示地価と71日時点の基準地価で地価が大きく変動して、発表されるたびにその高騰ぶりに戸惑っていたものだが、近年は年初と年央で大きな違いはなくなっている。
 今回の公示地価の注目点は、人口減少が進んで不動産需要が停滞するという地価下落圧力に対して、日銀の金融緩和政策やインバウンド(訪日外国人)の増加による交流人口の増加といった地価上昇要因が昨年の地価をどの程度押し上げたのか、といったところだ。
 結果を見ると、各新聞が一面で報道しているように「8年ぶりの上昇」となった。ただ、全国の商業地と住宅地を合わせた全用途平均は前年比僅か0.1%の上昇なので、「横ばい」という表現の方が良いのかもしれない。「8年ぶり」ということは8年前に何かがあって以来ということだが、2008915日のリーマンショックイヤー以来ということになる。
 商業地と住宅地に分けてみると、商業地のプラス0.9%に対して住宅地はマイナス0.2%なので、「商業地上昇、住宅地下落」といった二極化現象が見られる。また、東京・大阪・名古屋といった三大都市圏は商業地、住宅地ともにプラスなのに対して、地方圏は商業地、住宅地ともにマイナスが続いているので、「大都市圏インフレ、地方圏デフレ」といった二極化も顕著だ。東京銀座4丁目の山野楽器本店は1㎡当たり4010万円で、銀座の価格としては過去最高となり、三大都市圏の地価は3年連続で上がり続けていて新築のマンションは「サラリーマンには高すぎて買えない」という悲鳴も上がり始めているそうだ。昨年(2015年)の全国新築マンション市場動向によると、1戸当たりの平均価格は前年比7.2%上昇の4618万円で、バブルピーク時期(1991年)の4488万円を上回り最高値となっている。東京オリンピックまで、まさかこの状態を放置するわけではないでしょうな。反動が怖い。
 このような二つの二極化が鮮明になる中、他にも二極化現象がある。地方圏の中でも「北海道の札幌、東北の仙台、中国地方の広島そして九州の福岡」といった地方中枢都市は三大都市圏の上昇率1.1%を上回る3.2%の上昇となっており、地方の中でも二極化が顕著になっている。
 さらに、九州各県の県庁所在都市についてみると、福岡市と熊本市の2都市だけが商業地、住宅地ともに上昇した一方、佐賀市、大分市、宮崎市、鹿児島市は下落が続いている。県庁所在地でも、政令市とそれ以外で二極化が見られる。ただし長崎市については住宅地で依然下落が続いているが、商業地は2年連続プラスとなっている。これはリレー方式で進むことになりそうな長崎新幹線開通(2022年度開業目標)を見越した駅周辺再開発や県庁の移転計画(現在建設中で2017年秋に完成予定)が不動産需要を後押ししているためである。
 加えて今回の公示地価の特徴は、インバウンド増加の効果が、博多駅界隈のような都市のホテル需要の高まりだけでなく、地方の観光地の地価にも影響したことだ。新聞の見出しにもなっていたのが「由布院15.4%増、太宰府5.7%増」だ。由布院の場合、由布院駅から正面にまっすぐ伸びる道路沿いの商業地地価が1平米当たり10万円を超えた。日経によると、由布院の空き店舗の賃料は大分市中心部とほぼ変わらない水準に上がっているというから驚きだ。太宰府の場合は天満宮前の参道沿いが平米当たり22万円、坪単価では70万円を超えるところまで上昇した。ただし九州の他の観光地についてみると、長崎雲仙や熊本阿蘇内牧温泉、霧島そして指宿といった観光地の商店街はいずれも下落が続いているので、インバウンドの観光ルートに載った観光地とそうでない観光地での二極化も進んでいる。
 様々な二極化構造を生みながら全体の地価の下落には歯止めが掛かりつつある。
 ここまで二極化が進んでくると、計算上の平均値に位置する地域が存在しないというケッタイな状況が生じる。例えば住宅地の全国平均は▲0.2%だが、これに九州で一番近いのは熊本県の+0.1%でその次は大分県の▲0.7%だ。福岡県の+0.5%は全国平均を0.7ポイント上回り、鹿児島県の▲2.3%は全国平均を2.1ポイント下回る。
 こんなに二極化が拡がっている時に平均値を見て対策を検討しても意味がない。二極化の両方の「極」に対して、抑制策と浮揚策が取られるべきところだろう。30年前のバブル期はここを見誤って政策が後手に回り、その後の不良債権の重石による「失われた20年」の原因を作ってしまった。
 今後の注目点は、銀行による都心部への不動産融資がどこまで進んでどれだけ地価を押し上げ続けるかという点。昨年の新規不動産融資はバブル期を超えて過去最高となったが、1月末に日銀がマイナス金利政策を打ち出して以来、行き場を失った資金が一段と不動産融資に回っているはずだ。昭和末期のバブル期に突入し始める直前のような雰囲気になってきた。
 また、マイナス金利政策は住宅ローン金利の低下をもたらしているが、不動産価格が上昇すると、結局は相殺しあって効果は発揮されにくくなる。従って、不動産価格の上昇テンポは鈍化すると考えるのが普通だが、今後も上昇し続けるならば、それは「バブル」ということになるだろう。
 地価の変動に一喜一憂するのではなく、物価も地価もほんのちょっとだけプラスを維持して、お給料の増加率が物価や地価の上昇率をちょっとだけ上回るというのが理想的な姿だが、肝心の賃上げ率については昨年より低下しそうな気配なのが残念だ。

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北九州空港開港から10年

2016年3月16日
 24時間利用可能な海上空港=北九州空港(2008年の空港法改正以降は、「新」が取れた)が昨日16日、開港10周年を迎えた。
 福岡市民もあまり利用したことがないと思うので、簡単に復習をしておく。北九州空港は、日本航空とスターフライヤー(全日本空輸と共同運航)の羽田線が1日計18往復、フジドリームエアラインズの名古屋小牧線が2往復し、国際貨物定期便の中継地にもなっている。滑走路は全長2500メートルだが、欧米直行便の発着や貨物拠点化に必要な3000メートルへの延長を目指している。最近北九州空港が全国から注目されたのは、MRJ(三菱リージョナルジェット)の量産機飛行試験拠点としての格納庫建設に着工した時だ。羽田線が154往復の福岡空港と比較するのは酷だが、福岡空港は旅客機で目一杯なので貨物定期便を飛ばす余力がないため、エアカーゴは北九州空港に強みがあるし、MRJの飛行試験拠点になれたのも、余力があるからこそだ。
 昨年の利用者数は、フジドリームエアラインズが3月に新規就航したため2015年の国内線は前年比5.4%増の約129万人。また、訪日外国人の需要を追い風に国際チャーター便も増加している。チャーター便(近年はチャーター便と定期便の垣根がはっきりしなくなりつつある)は台湾、韓国、中国、ベトナムを結ぶ。国内線と国際線を合わせると昨年は131万人で過去2番目に多かった。といった具合に足元の状況だけ見ると、そこそこ順調なように見えるが、舞台裏は、相当苦しい。
 北九州空港は九州の主要8空港中、2015年の利用客数が7位にとどまっている(8位は63万人の佐賀空港)。5位宮崎空港294万人の半分以下、6位大分空港185万人の7割水準にとどまる。現在の定期路線は羽田線と名古屋小牧線のみで、これまで韓国・釜山線や日本航空の那覇線などが就航したが続かなかった。
 東京に出張した時、北九州空港を使ったことがあるか尋ねると、「北九州空港って、福岡空港のことですか」と聞き返されることがある。都市名の北九州ではなく、地域としての北部九州という意味での「北九州」と勘違いされがちで、それだけ知名度不足ということになる。また「空港まで遠いから小倉で仕事しても新幹線で博多まで行って福岡空港を使っちゃうよね」という声もよく聞く。ある意味、年間2097万人が利用する福岡空港が便利すぎる煽りを受けているのだ。
 ところがここに来て、ちょっとした2つのチャンスが訪れようとしている。
 一つは、乗り入れ便数の増加で発着の遅延が多発している福岡空港を、国土交通省が今月27日に「混雑空港」に指定し、新規就航や発着回数を大幅に制限することが既に決まっていることだ。混雑空港とは、航空会社がその空港発着の路線を開設したい場合に、事前に国土交通大臣の許可を受けなければならない空港を指し、「混雑空港」の指定は、羽田、成田、伊丹、関西の4空港に続き5か所目となる。新聞報道によると、北九州空港に就航を検討する海外航空会社が増えており、着陸料などの問い合わせが既に入り始めているというから楽しみだ。インバウンド増加を追い風として北九州空港を売り込むチャンス到来だ。
 もう一つのチャンスは、NEXCO西日本が、ひと月前(216日)、東九州自動車道 椎田南IC~豊前IC間(延長7.2km)が424日に開通すると発表したことだ。北九州市〜大分市間は、かつて国道10号だけを使っていた頃、3時間20分も要していたのが、来月24日以降は1時間45分と、ほぼ半分の移動時間となるので、大分県北部の需要を開拓するチャンス到来でもある。
 こういった2つの追い風が吹く北九州空港だが、空港間の抜本的な機能分担策を打ち出さないと、結局は過密空港=福岡空港対策として第二滑走路整備(後8年後)や都市高速からの空港直接乗り入れ、周辺道路整備等々に税金を投入し続けなくてはならないし、過疎空港対策として路線維持のために税金を投入し続けなくてはならない。
 では、誰が機能分担策を検討すれば良いのか。広域的で利害対立を調整するテーマについて議論しなくてはならなくなるが、今まで「九州は一つ」を理念として掲げて、道州制論議を進めてきた九州経済連合会が中心となる九州の財界と、「九州地方知事会」で構成される「九州地域戦略会議」の出番ですよ、ということになる。その「九州地域戦略会議」についてはこれまでも何度か取り上げたことがある。かつての九州国際空港問題では大喧嘩してしまったが、今回は「福岡空港の混雑空港指定と8年後の福岡空港第二滑走路開通までの期間限定政策ですよ」とエクスキューズすれば、とっつきやすいのではないか。理想的なのは、財界側から九州の空港の過疎・過密を放置できないと問題提議するところから始めるべきだろう。ところが、昨日の西日本新聞一面の記事を見て愕然とした。2008年度以降、年に12回開催してきた「道州制シンポジウム」を本日(2016317日)の長崎開催を最後に終了する予定だったが、開催地の長崎県が「道州制では人が集まらない」と難色を示し、シンポジウムのタイトルから道州制が外れることになったという。「地方創生・広域連携シンポジウム」というタイトルに変更されたらしい。
 地方創生は、勿論必要不可欠な政策ではあるが、今の都道府県と市町村の行政区分をガチガチに堅持した政策で、ある意味、道州制とは真逆と言っても良い性格だ。しかも「道州制では人が集まらない」とは何事だろう。集客のために戦略会議を開催するくらいだったら、止めたほうが良い。
 「北九州空港開港10年」と「福岡空港混雑空港指定元年」を契機として、空港問題という切り口から、「九州は一つ」をテーマとした議論を進めたい。

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全線開業から5年が経過する九州新幹線

2016年3月10日
 本日310日は山陽新幹線博多延伸から41年目、そして明後日12日は九州新幹線全線開業から5年目、翌13日が九州新幹線部分開業から12年目だ。九州の新幹線が節目を迎える10日、12日、13日の間の空白の11日が東日本大震災なので、これからもずっと九州で新幹線開業について考える時は、東日本大震災の混乱と悲しみとその後の復興に向けた取り組みがセットで語られ続けることになる。
 
博多-鹿児島中央間は1時間17分で結ばれるようになり、博多駅起点で考えると、大分よりも長崎よりも鹿児島の方が近くなって、移動時間距離で表した九州地図は「縦に短くて横に長い」地図となった。鹿児島市は特急時代の熊本市の位置にまで北上した感覚で、熊本市は特急時代の久留米市あたりの感覚になった。九州の西の新幹線軸あるいは九州縦貫道軸沿線の九州の一体感は大幅に高まりつつあると言える。当事者がなんと言おうと、九州フィナンシャルグループは九州新幹線無かりせば、誕生しなかったと言える。
 新幹線の時間短縮効果を鹿児島中央駅起点で考えると、もっとすごいことになっている。先日、朝8時半頃、鹿児島中央駅で同業者の方とばったり会って、当然一言目はお互いに「今日はどちらまでですか?」ということになった。「130分から延岡で仕事が入っているので8:48発の特急です」。同業者は「私も130分に大阪で仕事が入っているので8:54発の新幹線です。じゃあ、また」。私が延岡に着いたのは定刻通り12:41。同業者の方が新大阪に着いたのは12:42。こんな会話が普通に交わされるほど、九州の東と西の移動時間格差は広がった。
 5年前の全線開業は、東日本大震災直後の混乱の中のことだったので、しばらくは東日本への観光旅行が敬遠されて九州観光が注目されるという特殊な状況が続いたため、九州新幹線の実質的な効果がどの程度のものだったのかは、なかなか測りにくかったが、5年経って利用者数も安定推移するようになると同時に、九州新幹線開業の「光」の部分だけではなく「影」の部分も徐々に明らかになってきた。今日は、九州新幹線の効果を、利用者数と新駅効果の2点について振り返ってみたい。
 先ずは利用者数から。博多~熊本間は全線開業前の2010年度の1時間13分が33分へと半分以下への時短効果があり、利用者数も特急時代の652万人が開業初年度は896万人へと1.4倍に増え、開業2年目以降もじわじわと増加し続けて、昨年度は962万人に達した。一方、熊本~鹿児島中央間は、2004年に新八代以南が既に部分部分開業していたので、全線開業前の57分が44分へと2割程度の時間短縮効果でしかなかったが、それでも利用者数は部分開業だった2010年度の311万人が全線開業直後には514万人へと何と1.6倍にまで増加した。2004年に新八代以南が部分開業しただけで、利用者数は特急時代の2.2倍に増えていたので、部分開業時点の2.2倍×全線開業時点の1.6倍=3.5倍に増えたということになる。全線開業後の南九州はほぼ横ばいで推移して、昨年度は497万人と500万人程度を保っている。ざっくり言うと、博多~熊本間の新幹線年間利用者数は1000万人、熊本~鹿児島中央間は500万人という利用者数で落ち着きつつあると言えるだろう。
 これだけ福岡、熊本、鹿児島といった主要都市間の移動時間が短縮されると、博多から33分の熊本は完全に通勤・通学圏に入るので、新幹線定期券の利用も増えている。全線開業直後の20113月末には博多~熊本間の新幹線定期券利用者数は273人で、鹿児島中央~川内間の429人や鹿児島中央~出水間の350人をも下回っていたが、全線開業から2年後には博多~熊本間の定期券利用者数が鹿児島中央~川内間の利用者数を上回り、九州新幹線定期券利用者が最も多い区間となり、昨年3月末時点では595人が利用している。今、大学の合格発表ラッシュだが、博多~熊本間半年40万円(404,170円)の通学定期券は、熊本在住でお嬢さんの福岡市内の大学進学が決まったご家庭では、とりわけ子離れできない親御さんにとっては悩ましいところだろう。ちなみに通勤定期券は半年636千円也。企業では今が春の人事異動の内示ラッシュで、私設ボランティア人事部みたいなのがどこの組織でも活躍する時期だが、熊本から福岡に単身赴任するか、通勤手当上限を超える部分は手出しででも定期券を購入するか迷うところだろう。博多~久留米間(271枚)や博多~新大牟田間(159枚)を博多〜熊本間が上回っているのは、久留米や大牟田には新幹線の強力なライバル=西鉄大牟田線があるからだ。従って、新幹線通学通勤効果は福岡県内ではなく、むしろ県境を越えた長距離区間で顕著に見られたということになる。
 通勤・通学での新幹線利用の増加は、新幹線のマイカーならぬマイレール化が進んでいることを意味しているが、マイレール化は九州新幹線沿線で大いに進んだ。例えばヤフオクドームでの野球観戦、レベルファイブスタジアムでのサッカー観戦、博多座での観劇、大相撲九州場所等々、博多発九州新幹線の終電は鹿児島中央行きが全線開業前の9時ちょっと過ぎだったのが1027分へ、熊本行きが238分へと延長されたので、博多座でのお芝居のアンコールの途中、ヤフオクドームでのキスマイのコンサートのアンコール途中で席を立たなくてはならないということもなくなった。
 では九州新幹線駅がある地域全てがプラス効果を享受しているのか。
 新幹線開業効果を期待して、二次交通体系を整備した地域は少なくない。例えば、新玉名駅と有明フェリー長洲港を結ぶ接続バスや、新玉名駅と山鹿温泉・菊池温泉を結ぶバス路線、新八代駅と宮崎県都城駅を結ぶリレーバスなどだが、新幹線全線開業から5年経った今では、全て運行取り止めとなっている。理由は、新玉名駅、新八代駅ともにそもそも新幹線の停車本数が少ないことがあげられる。しかも停車するのはほぼ各駅停車の「つばめ」が多いが、これに乗ると、「みずほ」や「さくら」の座席が埋まっているのがウソのようにガラガラの時がある。予想されていたことだが、山陽新幹線に直接乗り入れている新幹線が多く停車する駅と、博多止まり各駅停車新幹線駅では、二次交通の効果に大きな差が見られたということになる。加えて、新大牟田、新玉名などの新駅を設置した都市の中心市街地の活性化には、ほとんど新幹線は貢献していない。20世紀に主に本州で整備された新幹線新駅は、人口増加、所得増加時代だったので、新幹線新駅が出来ると、新駅周辺に新しい街ができるという期待感があったが、人口減少、所得伸び悩みの21世紀の新幹線新駅設置による都市開発は、逆に既存の中心市街地を弱体化する方向に作用しかねない。
 また、JR九州が新幹線部分開業を契機として、スピード命の新幹線と対極にあるスローレールとなる新しい観光列車を導入して(JR九州はD&S(デザイン&ストーリー)列車と呼んでいる)大人気となっているが。しかし、それらは宮崎~南郷間の「海幸山幸」を除くと、「A列車で行こう」(熊本~三角)、「SL人吉」(熊本~人吉)、「指宿のたまて箱」(鹿児島中央~指宿)、「はやとの風」(鹿児島中央~吉松)、「いさぶろう・しんぺい」(人吉~吉松)、「あそぼーい!」(熊本~宮地)は、いずれも新幹線が走る西九州主体であり、東九州にまで新幹線効果を呼び込むまでには至っていない。「だから、「ななつ星」が大分と宮崎を走っているでしょう」「スイーツトレイン=「或る列車」は大分-日田間や長崎-佐世保間を走っているでしょう」ということになるのだが、あれは富裕層向けで一般的な新幹線停車駅を活かした取組とは呼べないだろう。
 そんななか、行政や地域のサポートで、新駅効果を最大限に活用しようと試みている新駅が2つある。
 1つはソフトバンクホークスのファーム新本拠地「HAWKS ベースボールパーク筑後」が間もなく新駅の西側にオープンする「筑後船小屋駅」だ。新駅の東側には3年前に福岡県の芸術文化交流施設「九州芸文館」もオープンしている。そもそも、駅周辺に公園をつくるのではなく、公園(筑後広域公園)の中に駅を作って集客機能を強化するという日本初の試み自体がユニークだ。
 もう1つは、駅周辺に市が24時間 100円という超格安市営駐車場を600台分建設して、パーク&新幹線ライドで利用者数を増やしている新鳥栖駅だ。J1サガン鳥栖のゲームをベストアメニティスタジアムで見る時は、スタジアムと鳥栖駅の間の駐車場に留めるよりも、新鳥栖駅の100円駐車場に留めて鳥栖駅まで一駅3160円の切符で移動した方が入場、退場は楽だ。佐賀県は空港の駐車場も無料だし、駐車場をうまく活用していると思う。
 九州の大動脈開通から5年を経て利用者数も落ち着いてきた今、今後を見据えた時に、太いパイプを細いパイプにどうつなげて行けば良いのか、そして面的な広がりにつなげれば良いのか、新幹線停車駅の無い地域の知恵の出しどころだ。長崎新幹線のあるべき姿も、そのあたりを検討する中で見えてくるのではないだろうか。

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人口減少と金融再編

2016年3月3日
 先週金曜日、昨年101日時点で実施された国勢調査の速報値が発表された。
 先ずは、那珂川町さんおめでとうございます。529人となり、市制移行の要件となる「人口5万人以上」を達成した。順調に行くと、2年後の2018101日に新しい「市」が誕生する(那珂川市となるか否かは今後の課題)。九州で市町村合併をしないで単独で町が市になるのは1997年の福岡県古賀市以来約20年ぶりということになる。ただ、101日の確報値までは気が抜けない。前回の国勢調査で那珂川町は速報値が49785人、確報値が49780人で5人減少しているからだ。さらに前回国勢調査での福岡県の速報値と確報値の差を振り返って調べてみたら、福岡県全体では確報時点で836人減。市では人口12万人規模の大牟田市が45人減、町村についてみると、人口3万人弱の筑前町で38人減という事例もあるので、緊張感を持って101日を迎えたいと思う。
 
那珂川以外に市制移行を狙っているのは、福岡県では志免町(45,275人)と粕屋町(45,371人。今回の国勢調査速報では、遂に志免町を粕屋町が追い越したというのも地元ではちょっとしたニュース)、長崎県長与町(42,562人。ここ10年は伸び悩み)、熊本県菊陽町(40,996人で遂に4万人の大台に載せた)の4つの町。いずれも県都のベッドタウンだ。この4町で那珂川市に続きそうなのは、粕屋町と菊陽町だが、今後10年以内は無理だろう)。
 九州7県の人口は、前回より18万人少ない1302万人。かろうじて1300万人台をキープしたので、余所から九州を訪ねてこられた方に九州を説明する時、あと5年間は「1300万人強です」と答えられる。5年後は「1300万人弱」になるのが確実だが。
 県別に見ると、九州で減少率が高いのは長崎県と鹿児島県でともに3.4%減。鹿児島県は戦後初めて170万人を下回り、長崎県も戦後初めて140万人を下回った。それぞれの県庁所在都市=県都の人口は、長崎市は長らく減少が続いているし、60万都市=鹿児島市も今回初めて人口減少に転じてしまった。明治時代に九州で最も人口の多かった鹿児島市、大正時代に最も多かった長崎市、その後熊本市、北九州市の時代を経て現在の福岡市の時代へと変貌してきた。
 今回、福岡県を除く6県で人口減少が進んだということになってはいるが、注意しなくてはならないのは、全国で8つの都県だけが人口増加で福岡県もその中の1つということになっていて、5年前に比べると確かに0.6%とちょっとだけ増えてはいる。しかし、県内60市町村の7割を超える44市町村で人口が減っており、九州各地から流入が続く福岡市を中心とする福岡都市圏とその他地域の二極化が浮き彫りとなっている。また、福岡県の人口推移を自然動態(出生数-死亡数)と社会動態(転入者数-転出者数)に分けてみると、九州における福岡一極集中のおかげで社会動態だけがプラスを維持している一方、自然動態は2011年以降マイナス続きだ。今後も人口が増え続けるためには、九州各県からの転入者数が増え続けなくてはならないが、他の6県は、ある意味、「福岡一極集中する余力さえなくなりつつある」と言っても良い。おそらく、次の国勢調査では7県ともに減少ということになるだろう。そのあたりの事情は福岡県自身も良く分かっていて、一昨年11月には既に「福岡県人口減少対策本部」を設置して対策を練っている。対策と言っても、ウルトラCがあるわけではないのだがソフトランディングするための施策は早目に考えておきたい。
 市町村別人口で今回のトピックスは、昨年の国勢調査実施時点で予測した通り、なんといっても「新宮町が増加率日本一となって(23%増)、九州では二期連続増加率1位だった熊本県菊陽町(9%増)が1位から陥落」したことだ。ただ、ここで意外だったのは、菊陽町が増加率2位ではなくて3位にまで陥落したことだ。2位に食い込んだのが屋久島と奄美大島の間に点在し、トカラ列島と呼ばれ、南北160㎞という人が常時住む地域としては「日本一長い村=十島村」だ。ビワやタケノコ、タンカンなどの農業やカツオ、サワラや伊勢海老といった漁業に従事する移住者への奨励金支給や空き家などを使った住宅支援に取り組み、UIターン者の受け入れに積極的に取り組む鹿児島県「十島村」の15%増は全国的に話題となった。九州で2位というだけでなく全国で新宮町に次いで第二位というのだから大したもの。増加数自体はたった101人に過ぎないが、2010年国調の657人が758人へと増えた。
 市町村別でもう1つの驚きは、人口増加数で、東京23区を除くと、福岡市の人口増加数が日本一となった一方で、北九州市の人口減少数も日本一となり、福岡県内には両極端都市が共存しているということだ。
 さらに、人口減少数が北九州市に次いで全国で二番目に大きかったのが長崎県の県都=長崎市。北九州市と長崎市はともに産業都市で、高度成長期をリードした重厚長大なモノづくり産業をベースとして成長してきた都市だが、経済がソフト化・サービス化するなかにあって厳しい状況が続いている。
 国勢調査の速報値が公表されたのと同じ日に、長崎市を本拠地とする十八銀行がFFGと来年4月に経営統合することが発表された。記者会見で十八銀行の森頭取が「県内の急速な人口減少などの経営リスク」を統合の理由として説明していたのが印象的だ。これだけでも大きなサプライズなのだが、十八銀行と佐賀銀行、筑邦銀行の3行は株式を相互に持ち合い、勘定系システムはNTTデータに一本化しており、かねてから統合が有力視されていたのに十八銀行はシステムが異なるFFGグループに入る道を選んだ。もはやシステムの違いは経営統合の高いハードルにはならなくなっているのだろう。
 もっと驚いたのは、再来年4月にはその十八銀行と佐世保市を本拠地とし9年前にFFGに入った親和銀行が、こちらは経営統合より一歩踏み込んだ「合併」をするということだ。誰もが思ったのは、今日現在でも長崎県内で顧客争奪戦を続けている二行がいきなり仲良くなれと言われても大変だろうということと、長崎県内で寡占化が進み過ぎるのではないかということだ。寡占化については事前に公正取引委員会には相談してきたということなので大丈夫なのだろう。
 総じて、「長崎県の人口、戦後初めて140万人割れ」というニュースと、最近の「マイナス金利で銀行の収益減少」というニュースの結果、やっぱり「地銀再編が加速」というニュースになったという印象が強まったのである。


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