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2016年6月

増え続ける九州産農産物輸出だが…

2016年6月30日
  九州の貿易統計を月に1回発表する門司税関は、九州の貿易品目で顕著な動きがあったものを特集記事として不定期だが年に23回のペースで掲載している。現場の執筆担当者は大変なご苦労をされていると思うが、細かい品目ごとの輸出入動向は、大雑把な貿易統計では見えないので、貿易実務に近いところにおられる方々の指摘が無いと、我々には良くわからないところも多いので、今後ともタイムリーな特集レポートに期待したいと思う。
 
その一方で、心配なこともある。先週、5月の貿易統計を発表した時には、「たまごの輸出 門司税関の2015年輸出数量及び金額 全国1位」という特集レポートを発表している。実は6年前にも「九州からの卵の輸出7年連続第1位」というレポートを発表していて、今年3月には「いちごの輸出 日本一」という特集記事を発表しているが、これも3年前のレポートの焼き直しなので、そろそろネタが尽きてきたんじゃないかと心配になる。
 
といったところで、昨年のたまごの輸出データを見ると、門司税関からの輸出数量は1,535トンで全国シェア67%、つまり3分の2を占めていて、なかでも「博多港」が全国シェア59%で全国一。動物検疫による2国間条件締結を交わしている香港向けが100%だ。足下3年間(2012年~2015年)では3.3倍に増えている。ちなみに、門司税関から昨年1年間に輸出された1,535トンとは、卵何個分に相当するのか、160gで計算してみると、1トンが16,667個分なので、2,558万個となり、余計に分からなくなってしまった。
 
そこで、このコーナーでもこれまで取り上げてきた「いちご」「みかん」「かんしょ(さつま芋)」の輸出は依然として好調が続いているのか、2012年以降について調べてみた。
 
「いちご」の輸出も「たまご」同様に絶好調で、足下3年間の門司税関管内からの輸出は、たまごと同じく3.3倍に増えている。たまご同様、香港向けが97%だ。昨年の出荷数量は241トンで全国シェア59%、つまり6割を占めていて、こちらは「福岡空港」が全国シェア59%で全国一。
 
一方、博多港からの輸出シェアが全国の6割を占める「みかん」の輸出数量については、足下3年間で7%減少している。カナダ向けが9割以上だ。みかんの場合は表年と裏年で生産量に大きな違いが生じることも影響しているかもしれない。ただそんなみかんも、輸出金額でみると3年間で44%増えているので、量から質への転換がうまく進んでいると言えるだろう。
 
さらに、「かんしょ」(さつま芋)の輸出については、足下3年間で数量は8割増加、金額に至っては2.1倍にも増えており、活況を呈している。香港向けが9割以上を占め、博多港からの輸出全国シェアはかつて6割弱で推移していたが、最近は神戸港が猛追しており、昨年の全国シェアを3割に高めたため、博多港のシェアは4割強に落ち込んでいる。それでも日本一に違いは無い。
 
ついでに、「たまご」と「いちご」と「みかん」と「さつま芋」について、今年に入ってからはどうだろうと思って、今年1月から5月の前年比を調べてみた。たまごは35%増、さつま芋も26%増と2ケタ増加が続いており、今のところ今年に入ってからの円高傾向の悪影響は出ていないが、「いちご」と「みかん」についてはともに1%と僅かだが前年を下回っている。これには、多くの都市住民はすっかり忘れてしまったかもしれないが、今年1月末に九州を襲った大寒波が、ある程度影響しているのではないかと推察される。ただ、安心できるのは、輸出数量で1%減少となっている「いちご」と「みかん」だが、輸出金額についてはそれぞれ10%増と35%増なので、高品質化は着実に進んでいる。
 
現在のBrexit(ブレグジット)騒動による一層の円高の影響が表れるのは今年後半以降ということになるが、TPPもどうなるか見極めにくい状況を迎えており、九州産農産物輸出の先行きはますます不透明感を高めていると言える。
 
そしてTPPと言えば、先月公表された農林水産省の農業白書がTPP関連政策を初めて特集していた。TPPが発効した場合の農林水産物の生産減少額を全国で1,300億円~2,100億円と見通しているが、既に熊本地震での熊本県内の農業被害額は1,000億円を超えている。そこで、例年ならば毎年7月上旬に公表される「九州農業白書」も、「TPPを迎え撃つ九州の農業」みたいな特集を組んでいるだろうと思って、昨日、九州農政局に今年の白書公表予定日時を電話で問い合わせた。すると、話をしながら大変失礼な電話をしてしまったと気付いたが、「今年につきましては、職員が復旧復興で手いっぱいなので、公表時期はいつになるかも決まっておりません」とのことだった。九州農業白書は1年くらいお休みしても構わないんじゃないかという気もする。
 
2度の震度7の地震」「特に熊本と大分で激しい今の豪雨」さらに「イギリスのEU離脱による突然の円高」と泣きっ面に蜂状況の九州産農産物の輸出を取り巻く環境変化だが、果たして今年後半はどうなるのだろうか。
 
ちなみに明日は6月の日銀短観が発表される。九州の場合、大きく落ち込んだDIが出てくるだろうから、その心の準備もしておきたい。日銀福岡支店によると、熊本県の回答対象企業には、通常通り業況アンケート調査用紙を発送しているとのことだが、こちらも熊本県分は今回はカットしても良いのではないかという気がする。

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TPPのお手本=EUでのイギリス離脱騒動

2016年6月23日
 EU(欧州連合)離脱の是非を問うイギリス国民投票の日を迎えた。と言っても時差があるのでイギリスで投票が始まるのは日本時間、本日午後3時(グリニッジ標準時=現地時間朝7時)からだ。直近の世論調査では、EU残留キャンペーンを展開していた女性の下院議員が襲撃され死亡してからはEU残留派が盛り返しているとの見方もあるが、予断を許さない。最終的な開票結果が発表されるのは、イギリス選挙管理委員会によると現地時間の「朝食時間頃」(?!)となっているので、日本時間だと明日金曜日の午後になるだろう。しかし、大勢がやや早目に判明するとなると、東京証券取引所が世界で最も早くイギリス国民投票に反応する株式市場ということになるかもしれないし、最後の最後まで結果が分からず午後3時に東京市場が引けた後で結果が判明すると、来週月曜日まで待たないといけないので、世界で最も遅く反応する株式市場ということになる。
 
世界中の様々な調査機関が、イギリスのEU離脱が現実のものとなると、イギリスだけでなくEUの経済成長率が下落して、リーマンショックほどではないものの世界経済の停滞をもたらすだろうと悪魔の予言を発している。もし離脱となれば、日本では急激な円高・株安ショックに見舞われる可能性が高く、デフレに逆戻りして企業収益も落ち込むという最悪シナリオも予想されるので、参院選の行方(710日投開票、なんとまあEURO2016決勝戦と被るではないか。どちらの視聴率が勝つだろうか)にも大きく影響するかもしれない。
 
もっとも、国民投票の結果が「離脱」になったとしても、すぐにイギリスとEUの関係が大転換するわけではなく、今後2年間協議した上でイギリスとEUの関係が決まることになっているし、イギリスとEUの経済連携協定がどんな形になるのかは2020年以降にならないと分からないだろうから、突然、明日から何かが変わるというわけではない。しかし、不確実性が高まることだけは確かなので、リーマンショックの時のように、不安が不安を呼び、疑心暗鬼な雰囲気が世界中に広がるかもしれない。
 
世界中が注目するイギリス国民投票だが、EUと日本そして九州の関係は、果たしてどうなっているのだろうか。
 
貿易の面でみてみると、九州の輸出額の8.3%、輸入額の3.2%EUが占めている。全国の貿易では、輸出入ともにEU1割を占めているので、「九州のEU度」は低いということになる。対EUの貿易収支については、過去20年間遡ってみると、九州の場合はずっと貿易黒字が続いているが、全国の場合は、足下4年間に関しては貿易赤字へと変化している。そこで、日本が対EU貿易赤字に転じた理由を調べてみた。
 
日本からEUへの輸出品目第一位は今も昔も「自動車」で、EUからの輸入品目第一位もリーマンショックの直前までは「自動車」だった。「走って曲がって止まる」という機能性では大きな違いは無いのに(E91F56に乗っている分にはちょっとは違う)、自動車を輸出して自動車を輸入している。同一機能の最終商品をお互いに輸出し合うことを「産業内貿易(水平的国際分業)」というが(反対は「産業間貿易」(垂直的国際分業))、これには、デザインや乗り心地、ブランド力の違いが影響しており、日本、EUともに消費者が互いの国・地域を一定レベルにおいてリスペクトしている証左でもある。
 
しかし、近年は自動車の輸入が停滞する一方、「医薬品」の輸入が急増している。EUからの医薬品輸入金額は、1990年代に年間3,000億円台で推移していたのが、2005年以降は5,000億円を超えて、2012年度には11千億円台、そして昨年度2015年度は、18,000億円を上回った。昨年度の自動車の輸出額は、円安の影響で増えてはいるが、それでも9,000億円に止まり、医薬品の半分でしかない。とりわけ2005年に薬事法が改正され、製造工程の全面外部委託が可能になってから、海外で製造して輸入するといった動きが活発化している。EUからの輸入は今では完全に1位医薬品、2位自動車となっている。医薬品の輸入超過は、「日本の医療費を支える税金と保険料が海外に流出している」という指摘にもつながっている(医薬品業界の反論としては、政府が高い法人税率を課しつつ、中小企業政策にばかり税金を投入し、新薬の研究開発を支援しないからだといったものがある)。自動車のEUからの輸入が増えないのには、リーマンショック以降は特に、生産コストの安い国へと生産現場を移したことも、日本がEUから直接輸入する自動車が減少した一因でもあろう。日本とEUの主要貿易品目をざっくり語るとするならば、日本から自動車を輸出して、日本は医薬品を輸入していると言える。
 
また、全国と九州ではEUを国別に見た場合の輸出先第一位が異なる。全国の場合、もちろんEUへの輸出先1位はドイツで過去20年間変化していないが、九州からのEUへの輸出先第一位は、「オランダ」だ。しかも輸出品目の1位は全国同様に自動車だが、2位は「事務用機器」の中の「電算機類の部分品」だ。この事務用機器って何だろうと思って、港別の輸出額を調べたら、大分港が圧倒的に多かった。つまりはキヤノンのプリンター(もしかするとスキャナーも入っているか?)だ。九州に立地する家電メーカーで、最終商品まで九州で生産して箱詰め出荷まで実施しているのは、ほぼキヤノンのみだが(デジカメとプリンター)、その面目躍如といったところだ(就活中またはインターン検討中の学生さん、キヤノンが正式社名ですから、間違ってもエントリーシートにキャノンと書かないように。Canonは観音様の「かんのん」に由来していると聞いたことがあります)。
 
全国の場合、対EU赤字が4年間続いているが、九州についてみると、未だにEUとの貿易黒字が続いているので、イギリスがEU離脱しても直接的な影響は軽微なものとなる。
 
さらに、EU離脱騒動で世界の注目を集めるイギリスに進出している九州の企業はというと、「安川電気、TOTO、西日本鉄道」といった、九州企業の海外展開を語る時に常に出てくる企業程度で、それほど多くない。しかもこれらの企業は大規模な製造拠点を置いているわけではなく、営業部門やアフターサービス部門を展開しているだけなので、本業の生産活動・雇用に即、大きな影響が出てくるとは思えない。
 
こう見てくると、九州のEU度が低い分、「対岸の火事」みたいに思っておけば良いようにも思えてしまうが、必ずしもそうではない。リーマンショックの時は、アメリカ経済がおかしくなって、主に金融面では日本経済も即刻どつぼに嵌まり込んだが、もう1つのルートとしては、アメリカがこけた時、中国の高度成長が揺らぎ、日本経済・九州経済も大打撃を受けた。日本そして九州の最大の貿易相手国=中国の当時の最大の輸出相手国はアメリカだったから、このような玉突き現象も顕著に見られた。「輸出が蒸発した」と言われたのも、直接、間接、両面で打撃を受けたからである。ところが、リーマンショック以降は中国の最大の輸出相手国はアメリカからEUに変わった。その中国の輸出先第一位のEU経済が今度のイギリスEU離脱騒動で変調をきたすと、中国経済が停滞し、日本そして九州も委縮するということになる。直接的なショックは小さくとも、中国経由での影響は相当なものになるだろう。
 
それにしてもちょっと笑ってしまいそうになるのが、「EUみたいな経済圏を環太平洋地域にも作りましょう!」「目標はEU!」といってスタートしたTPPが基本合意した時に、既にギリシャ危機はとんでもない状況に陥っており、次はTPPの先生=EUからのイギリス離脱騒動だ。もしそうなると、イタリアやフランスも国民投票するのではないかとまで言われているし、場合によっては2年前にイギリスからの独立を巡って住民投票が行われたスコットランド独立問題(賛成46%に対し反対54%)が再燃するかもしれない。TPPのお手本よ、どこへ行く。
 
さらにそのTPPについては、USTR(アメリカ通商代表部)のフロマン代表が今月14日、講演の中でTPPの議会承認が大幅に遅れる恐れがあるとの認識を示して、「年内に承認されなければ、いつになるか不透明になる」と述べており、いよいよTPPは漂流し始めそうな気配だ。加えて、次期大統領候補のお二人とも、レベルの違いはあるが、今のTPP合意内容は認められないとしている。
 
TPPを議論する際には、明日午後には最終結果が判明するイギリスのEU離脱問題をきちんと分析しておく必要があるだろう。
 
と、うまくまとめたところで本音を言うと、目下最大の関心事は、イギリスのEU離脱問題の結末よりも、今、フランスで開催されているEURO2016UEFA欧州選手権)の結末の方だ。つい先ほどベスト16が出揃ったが、626日にEU離脱予備軍のホーム・フランスがアイルランドを破り、直後にEU最大の勝ち組国家ドイツがスロバキアを倒し、27日にはこれまたEU離脱予備軍のイタリアが、今大会いまいち精彩を欠くスペインをカテナチオからのカウンターで撃破し、28日には今回のEU離脱騒動の主役イングランドがアイスランドを破り(今大会のアイスランドの戦い方は素晴らしいが)、73日の準々決勝ではドイツがイタリアを、翌4日の準々決勝ではイングランドがホーム・フランスを制し、遂には78日、EUの大親分「ドイツ」とEU離脱でもめた「イングランド」がセミファイナルで激突し(逆サイドとの落差があまりにも大きいので「事実上の決勝戦」と呼ばれるだろう)、ドイツが決勝進出なんてことになったら、イングランドのまともなサポーターまでもがフーリガン化しないか心配だ。最後の決勝戦はおそらくオマケみたいな扱いになるかもしれないが、意外や意外、EU非加盟の永世中立国「スイス」(A2位)が決勝まで勝ち進み、「EUの盟主ドイツを破って優勝」なんてことになったら、もうEU解体に歯止めがかからなくなるのではないだろうかなどと妄想しているのは、果たして私だけだろうか。

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ふるさと納税とクラウドファンディング

2016年6月16日
 震度7の前震から今日の午後926分で9週間。
 
総務省は14日火曜日、「ふるさと納税」による2015年度の地方自治体への寄付額が前年度の4.3倍(1,653億円)に増えたと発表した。一方、件数は3.8倍(726万件)に過ぎないので、1件当たりの寄付額が高額化したことになる。1,653億円という寄付額を企業の売上高に譬えるならば、JR九州の鉄道事業の売上1,633億円に匹敵し、岩田屋三越の年商1,173億円を大きく上回る金額だ。自治体がふるさと納税でお礼の特典を送るのは、うがった見方をすると、「税金減免サービス付き通信販売」と言えなくもないので、流通業界から「民業圧迫」の声が出てこないのが不思議なくらいだ。
 
8年前の2008年度から始まったふるさと納税だが、初年度の81億円が2013年度146億円、14年度389億円そして15年度1653億円なので、ここ2年間で大ブレークしたことになる。その理由は、①自治体が競うようにお礼の特典を充実させたことや、②昨年4月からは減税対象となる寄付額の上限が約2倍に引き上げられ、さらに③納税先の自治体が5つの団体までであれば、確定申告もいらないという「ワンストップ特例」で手続きが簡便化されたことである。
 
総務省からは、ふるさと納税額が多い市町村ベスト20が公表されている。42億円を集めた全国1位の都城市では、宮崎牛と焼酎を前面に押し出し、お礼の品の「焼肉フルセット」は、宮崎牛ロース300グラム、豚肉バラ400グラム、若鶏モモ身300グラムそれにウインナー5本といった内容で、1万円寄付するともらえる。九州からは第4位に27億円を集めた鹿児島県大崎町がランクイン。お礼の品は「ジャパンファーム」(日ハム系)のお膝元なので、牛肉・豚肉・鶏肉は当然として、ウナギ養殖日本一の鹿児島県でも最も養鰻業が盛んな地域らしく「鰻のかば焼き」も準備している。6位に佐世保市、7位に前年度日本一だった平戸市。平戸市は日本一だった2014年度の寄付額15億円より11億円多い26億円を15年度には集めたが、7位に転落した。それだけ自治体間競争が激しくなっているということ。全国9位に佐賀県上峰町。13位に久留米市。16位佐賀県小城市。17位宮崎県綾町と、全国ベスト208つの市と町が入った(2014年度は5市町)。17位の綾町が受け取ったふるさと納税額138千万円は、人口7200人の綾町の年間税収額の2.4倍以上に達するので、もはや撤退しようにも撤退できない状況になっている。
 
では、47都道府県別にふるさと納税額をみると、どんなランキングになっているのか。金額ベースでは、1位北海道、2位山形県、3位長野県ときて、九州7県では4位に宮崎県がランクインし、5位佐賀県、7位長崎県、8位鹿児島県そして9位福岡県とベスト105県が入っている。ところが、ふるさと納税金額を納税件数で割って、納税1件回当たりの受け取り納税金額を計算してみると、宮崎県は17千円で、なんと46位と大きく落ち込む。納税額1位の北海道も44位だ。ふるさと納税1回あたりの金額は、東京都が133千円でダントツの1位。2位京都府95千円、3位神奈川県48千円と圧倒的に多い。つまり、ふるさと納税額は多いのに納税1件当たりの金額が小さいということは、ふるさとを応援するというよりは、少額のふるさと納税で、お得な特産品を買い漁られているとも言えるだろう。
 
また、今回、総務省は総額1,653億円のふるさと納税を受け入れる自治体のコスト・費用を公表している。これを使って、「株式会社 ふるさと納税ジャパン」という1つの株式会社のように見立ててふるさと納税事業の収支決算書を作ってみると結構面白い。1,653億円の売上収入を達成するための返礼品の調達コスト(売上原価)は633億円となっているので、「粗利益」は差額の1,020億円。さらに返礼品の送付に係る費用43億円とふるさと納税募集の広報に係る費用14億円、事務に係る費用85億円の合計142億円を「販売費および一般管理費」とすると、「営業利益」は878億円。さらに金融機関の取扱手数料やクレジットカード手数料などの決済に係る「営業外費用」18億円を差っ引くと、「経常利益」860億円とはじき出される。経常利益860億円を叩き出せる九州の企業は、非製造業では(元気な頃の)九州電力と製造業ではトヨタ自動車九州くらいだろう。しかも633億円の仕入れ値を1,653億円で販売していることになるので、世の中一般のビジネスの平均=6掛けではなく4掛けで商売できるのだから、とってもおいしい自治体ビジネスではある。
 
ここで、ふるさと納税の賛否両論をまとめてみると、以下のようになる。
賛成派「ふるさと納税は都市部に偏る税収を地方に移す政策だから均衡ある国土の発展に資することになる。」
反対派「地方交付税制度を充実させれば済むことではないか。そもそも豪華な返礼品を送るのはふるさと納税の本来の趣旨に反してるだろう。」
賛成派「地元産業の振興に役立っているのは事実じゃないか。」
反対派「税金を投入して自治体が地元産品を買い支えているだけで、形を変えたばらまき公共事業だ。そもそも、自治体によっては、自転車など地元産品とは言い難いものを返礼品にしているのはけしからん。」
賛成派「君は久留米市がブリヂストンのお膝元だというのを知らんのか。自転車は久留米の特産品だから、それを久留米のふるさと納税の返礼品にして何が悪い。」
反対派「じゃあ、中国産ブリヂストン製のゴルフクラブを久留米市が返礼品としているのも正しいと言うのか。」
賛成派「全てが中国製じゃなくて国産もあるぞ」
反対派「少なくともヘッドカバーは中国製だぞ」
賛成派「実を言うと、あのゴルフクラブは、今年4月の総務省のふるさと納税に関する通達に従って、8月末で終了することになったんだ。」
反対派「なぜそれを先に言わない。8月までに久留米にふるさと納税しとかなきゃ。」
ジャンジャン♪といったところに落ち着く。
 
ふるさと納税にはこのように賛否両論あるが、一定の上限枠を設けないと、際限なく地域間競争が激化するし、地域の食品メーカーがふるさと納税依存体質を強めると、「割と良い下代で買い取ってくれる地元役場が最大の販売先」といった歪んだ経営になってしまいかねない。事実、そうなってしまった事業者を知っている。そういう企業に限って、ここ数年間ばらまかれ続けた「ものづくり補助金」(補助率3分の2)を2回も使って設備投資している。いい加減な事業計画であっても補助金申請書の作文テクニック次第でどうにでもなる世界だという味を占めたコンサルの責任も大きいが、1,500万円の設備投資を2回。うち2,000万円が補助金というのはいかがなものか。ふるさと納税返礼品特需の陰に隠れた大問題の所在に経営者自身が気付いていない。ふるさと納税だからこそプロダクトアウトが通用しているのであって、もっと行政に頼らず独自のマーケティングに力を入れないと、本当にやばいですよ。ここまで来ると、出来の悪い第三セクター予備軍といった態である。
 
さらに、今のふるさと納税制度だと年収が高い人ほど利用枠が大きいので、格差拡大を助長してしまいかねない。年齢や家族構成によっても異なるが、共働き世帯の場合、一人当たり年収が300万円だと限度額は28,000円だが、年収3,000万円だとふるさと納税の上限額は1029,000円に跳ね上がる。富裕層がお礼の品に保存可能な食品を大量注文すると、大幅に節税できる上に食費0円で生活できてしまうかもしれない。ふるさと納税で格差社会を助長してどうする。
 
様々な声が飛び交うふるさと納税だが、一定の重要な役割を果たしていることを適正に評価しておくことも忘れてはならない。
 
1つは、日本に「寄付文化」を根付かせる基礎をつくったということだ。今年の都道府県別ふるさと納税ランキング第1位は熊本県でほぼ決定だが、返礼品無しでのふるさと納税が多いことがそれを物語っている。
 
2つには、自治体経営に「マーケティング」(販路開拓・自治体PR)という視点を持ち込み、小規模な市町村役場職員にも「やればできる」という成功体験と自信を与えたことだ。もっとも「自信」が「自信過剰」となり「慢心」にならないか心配になる。
 
そして3つには、地域の課題を解決するための資金調達手法としてふるさと納税を活用する自治体が増えてきたこと。換言すれば、「自治体版クラウドファンディング」の芽が見えてきたことである。クラウドファンディングの場合、納税者も納税金の使い道が明確なので、安心してふるさと納税できるし、事業の進捗状況は、逐一、事業者から納税者へと報告することになるので、地域おこしに一役買っているという実感を持てる。「あの復元されたお城の屋根瓦の左から3列目、下から4つ目の一枚は、俺のふるさと納税で出来たんだ」という自己満足に浸りながら飲む中ジョッキ1杯は格別だ(誰も褒めてくれないけど)。
 
市町村のふるさと納税サイトを覗くと、様々な地域課題を解決する資金調達手段としてふるさと納税を活用する取組が着実に増えている。例えば、美しい自然には恵まれているが、宿が1つしかないため日帰り観光客ばかりとなった人口5,700人の高知県越知町(おちちょう)。そこで、標高400mの山にある古民家を改修して、古き良き日本の田舎をコンプセトとした「ゲストハウス」をひらくこととなった。総務省の地域おこし協力隊の隊員によって母屋は完成したものの、足りないものが6つ。1.露天五右衛門風呂80万円、2. 囲炉裏22万円、3. 天然麻の蚊帳8万円、4. 母屋とトイレをつなぐ屋根つき渡り廊下30万円、5. レンタル用電動自転車660万円、6.川遊び用レンタルウェットスーツ、ライフジャケットなど100万円。合計300万円をふるさと納税で募集中だ。お礼の品は質素で、1万円以上の支援で「オリジナルステッカー2枚とオリジナル手ぬぐい1枚」。5万円以上の支援でも「オリジナルステッカー16枚、オリジナル手ぬぐい4枚、ゲストハウス宿泊料500円割引券4枚」と質素だが、今日現在で、24人から503,200円を集め、達成率は16.8%だ(やや厳しそうな気配)。
 
総務省の調査報告書によると、ふるさと納税を募集する際の使途を納税者が選択できるようにしている自治体は90.8%に達しているが、具体的な事業まで提示しているのは全国62団体(3.4%)に過ぎない。今後は「教育」や「地域振興」といった大雑把な分野だけでなく、「小学校へのタブレット端末の配備」とか「民泊可能な古民家の修復事業」といった具合に、税金の使途を具体的に示して、それを選択してもらうといった取り組みが増えることを期待したい。熊本の復旧・復興にも公的資金で賄えない部分には応用できるのではないだろうか。貴重な返礼品となる「くまモン非売品グッズ」の量産体制を軌道に載せることができれば、世界中からふるさと納税が集中するのではないか。否、国境を越えたふるさと納税は不可能なので、海外向けは、最初からクラウドファンディングでやった方が良い。
 
ふるさと納税の使途に具体的事業の掲載が当たり前のこととなる時、「ふるさと納税」は、地域課題を解決する「自治体版クラウドファンディング」へと進化するのである。

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変わる企業誘致政策 〜生産機能からオフィス機能へ〜

2016年6月9日
 震度7の前震から今日の午後926分で8週間。一部報道によると、熊本地震で施設が損壊した熊本県内の日本料理店やゴルフ場の中には、廃業の危機に直面している老舗地場企業があるという。熊本に本社を置く地場企業が苦戦する中、ある企業が今月26日の株主総会後に本社を東京都品川区から熊本市へと移転する。生産設備メーカーの平田機工()だ。平田機工は、1951年に産業用の車輌製造販売業として熊本市で創業し(資本金100万円)、経営規模拡大に伴って創業30年目の1981年には東京に本社を移転した。今はGMFordFiat Chryslerといった欧米自動車メーカーからイギリスの家電メーカーDysonとも取引するグローバルカンパニーへと成長している(資本金263300万円)。平田機工の熊本の工場に甚大な被害があったわけではないが(社員さんがお一人、南阿蘇村で亡くなられた)、創業地で工場のある熊本の復興を支援するための本社移転だという。社長の記者会見の様子は各方面で報道されたが、「熊本に世界中から多くの仕事を持って来たい。地元で中小企業の取引先を育てて元気にしたい」と語っていて、大企業本社のUターンは、熊本復興をおおいに勇気付けることにつながっている。
 実は、この「本社機能移転」は、全国の自治体が「地方創生」の旗印のもとで、現在、全力を挙げて取り組んでいる最重要施策の一つである。
 ここで言う「本社機能」の定義は何かと言うと、諸説あるものの、企業誘致政策として使われる時の「本社機能」とは、企業内の「調査・企画部門」「情報処理部門」「研究開発部門」「国際事業部門」「その他管理業務部門」のいずれかを有する「事業所」または「研究所」、もしくは「研修所」としている自治体が多い。
 本社機能移転の地域における意義は、雇用創出、税収アップ、新たなビジネスチャンスの創出、域内産業への波及といったところ。
 ところがこの「本社」あるいは「本社機能」は、言わずもがなだが、東京一極集中状態にある。アメリカやドイツといった地域主権型の連邦制国家の場合は本社所在地は分散型になっているが、日本やイギリス、フランスといった中央集権色の濃い国の場合、どこも首都一極集中型だ。例えば、上場企業の首都立地割合についてフランスやイギリスと比較してみると、フランスはパリに27%が集中し、イギリスはロンドンに40%が集中しているが、日本は東京に51%と過半数が集中しており、極端な首都一極集中となっていることが分かる。足下の10年間について本社東京一極集中の変化を見ると、東京都から他の道府県に本社や本社機能を移した企業は約7,800社。これに対し、東京へ転入した企業は約5,700社に過ぎないので、転出が転入を上回っているから、足下10年間については、次第に本社の東京一極集中は緩和しているのではないかとも思える。しかし、東京から転出した企業の7割は、神奈川、埼玉、千葉の3県に移転しているので、「東京一極集中」は緩和しても、逆に「首都圏一極集中」は進んでいることになる。

 政府としても本社の東京一極集中を見過ごすわけにいかないので、今から11年前の2005年に「地域再生法」を制定した。当時の「構造改革特区」が、特定地域における限定的な事業を対象とした規制改革で財政措置を伴っていなかったのに対し、「地域再生」は、交付金や課税特例等の支援措置があり、国の認定を受けるすべての地域・分野において財政支援が適用されるようになったが、首都圏一極集中の傾向に大きな変化は見られなかった。あれから11年。再び今年、地域活性化を後押しする「地方創生推進交付金」や、企業が自治体に寄付すると減税となる「企業版ふるさと納税」に関するメニューを盛り込んだ「改正地域再生法」が成立した。ところが、この新しい法律の誕生は、いまいち人口に膾炙するには至っていない。とりわけ九州の場合、交付税や減税措置と直接かかわる地方公務員以外の関心は低い。なぜならば、法案が成立したのが今から8週間前の414日、最初の震度7の日の衆議院本会議だったからだ。415日以降の紙面では片隅に追いやられることとなった。
 各自治体は地域再生計画を策定し、国の税制優遇措置の適用を目指しているところだが、その目玉政策の1つが「本社」または「本社機能」誘致だ。政府は研究開発や管理業務など本社機能の地方移転に向け、オフィス減税や雇用促進税制の特例措置を設けた。各県が独自策を上乗せし、誘致を競っている。
 福岡県は県内に本社機能を移転した企業に県税の一部を軽減する条例案を昨年末から施行している。県外からの移転に対して不動産取得税を10分の1にするほか、初年度の事業税を2分の1にする。国が既に実施している優遇制度に県の独自制度も上乗せし、企業誘致を進めて雇用拡大につなげる。本社機能移転に関する国の税優遇制度は東京都23区内からの移転が対象だが、福岡県の制度は地域制限を設けない。従って、東京都23区内の企業は国と県、両方の制度を併用できるようになる。
 佐賀県は2016年度から社屋などの取得に最高1億円の補助金のほか、オフィス賃料を3年間で最高6000万円、東京などの本社へ従業員が出張する費用を上限無しで補助する。県内で5人以上雇用すれば、1人あたり100万円、転勤では50万円支給する。2019年度までに16社を呼び込み、240人の雇用創出を目指している。
 大分県は16年度から大企業が10人以上、中小企業が5人以上を地元から新規雇用する場合1人あたり80万円、転勤者は同50万円を支給する。オフィスなど新規の設備投資には投資額の3%、賃貸物件に入る移転企業に対しては賃借料の3分の13年間補助するなど、手当てを充実させる。
 鹿児島県も16年度から、移転に伴う設備投資額の2%や移転経費の半分などを補助する。
 宮崎県は本社機能を移転・拡充する企業向けの補助金制度を1510月に新設した。情報サービス産業や試験研究機関は10億円、製造業や流通業は4億円を最大で補助。知事が地域の活力向上につながると認定した業種の企業にも最高4億円を支給する。
 2016年度中には東京都と神奈川県を除く、全道府県が導入する見通しだ。全ての自治体が似たような優遇策を打ち出すと、結局、地域間競争があおられただけで終わってしまうのではないかと心配になる。既に、長野県は法人事業税を3年間95%減額、富山、石川両県は90%減額する政策を打ち出し、法人事業税以外では、石川県が不動産取得税、長野、富山の両県が不動産取得税と固定資産税の減額措置を設けた。
 なんだか、財政はひっ迫しているのに、補助金ばらまき競争の様相を呈しつつあり、至れり尽くせりの「本社様。いらっしゃい」サービスだ。
 かつての企業誘致は、工場、つまり生産機能の誘致が中心で、誘致場所は過疎に悩む郡部中心であった。時代は移り、県庁所在都市でさえ人口減少が当たり前という人口減少社会に突入した今、企業誘致の中心は、本社機能、つまりオフィス機能の誘致中心となり、誘致場所は過疎に悩む都市部へと変化しているのである。
 で、冒頭の平田機工の熊本市への本社移転計画話に戻る。現時点で東京からの人員の異動は予定していないため、国の補助金などの優遇措置は適用されない予定だ。普段、株取引は全くしないので、日経平均株価やTOPIXには注目しても、個別銘柄の動きなどチェックすることはほとんどないが、平田機工の株価の推移を先ほど調べてみて驚いた。8週間前の414日木曜日の終値は2,794円。それが本社熊本移転を発表した512日翌日、513日金曜日には、3,815円、そして昨日、68日水曜日には5,450円へと高騰している。熊本地震前に比べて1.95倍、約2倍だ。背景には、決算予想が相当良いのではないかとの期待感が高まったことや、韓国や日本の家電メーカーが有機ELの生産増強に力を入れ始めているので、その分野の製造装置に強い同社の技術力が注目されたことが大きいのだろう。しかし、投資家の中には、被災地熊本を応援するメッセージも込めて株を購入した投資家も少なくないのではないだろうか。いや、そうであって欲しい。近年の投資家像は、日々のマネーゲームに奔走するカネの猛者、あるいは投機屋といったイメージが強まっているが、平田機工のこのタイミングでの本社熊本移転というCSR(企業の社会的責任経営)活動を、投資という形でサポートする良識ある富裕層が少しでも存在していたとするならば、まだまだ日本も捨てたもんじゃないなという気にさせてくれるのではないだろうか。



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もう1つの復興支援 〜全員避難から1年〜

2016年6月2日
 震度7の前震から今日の午後926分で7週間。
 昨日は地元一番店の鶴屋百貨店が全館営業再開。熊本城のライトアップ再開。ともに「九州のへそ」のシンボルだ。そして九州縦貫自動車道「益城熊本空港IC~嘉島JCT」の最高時速がこれまでの一旦停止と2040/h速度規制が50/hに緩和された。東京や大阪から見ると、ちょっとした速度規制緩和のように思えるだろうが、九州の大動脈にとって、とても大きな影響を与える重要な速度規制緩和となるだろう。旗を示して一旦停止の合図をしながら11台に頭を下げて、こちらも会釈をしてリスタートするあの光景が、なんだか懐かしくも思える。そして、今日からは熊本空港を発着する国内線各社が熊本地震前の通常ダイヤによる運航を再開する。そんな交通機関の復旧と歩調を併せるように、政府の大胆な支援策も続々と決定している。

 政府は、7月以降、九州観光の旅行費用を最大7割補助する制度を導入する。災害復興策としては日本初だ。旅行商品の割引率は被災した熊本、大分両県で79月が最大7割、1012月は最大5割。他の九州5県は795割、10124割。1人当たりの割引上限は12日で2万円、23日以上は3万円に制限する。熊本県の温泉地までの旅行商品が5万円(12日)の場合、7割引きだと割引額は計算上35千円となるが、上限2万円が適用されるので3万円で5万円の旅行商品を買うことになる。それでも5万円の旅行商品が3万円だったら購入希望者は殺到するだろう。九州に住む私たちが九州観光するのにも勿論使えるので、大いに楽しみにしたい。さらに政府は、中小企業支援策として、施設復旧費の75%を補助することを決めた。注目点は、「4分の3補助」という補助割合の大きさだけでない。一般に中小企業への補助金は設備投資には使えない(試作機はOK)が、今回は、東日本大震災の時と同様に、企業の建物や設備の修繕にまで国が補助金を支出する点が画期的だ。熊本の多くの中小製造業者から「待ってました!」の声が聞こえてくるようだ。
 といった具合に、熊本地震の復興支援がますます活発化する中、その陰でほとんど話題にならなかったのが残念だが、今週の日曜日(529日)鹿児島県屋久島町、口永良部島(くちのえらぶじま)の新岳(しんだけ)が爆発的噴火をして、86世帯137人全員の全島避難からちょうど1年目を迎えた。火口から2.5㎞の警戒範囲外の住民が昨年末から帰島できるようになったが、島に戻ったのは約8割の66世帯108人にとどまっている。2割の島民は、今も鹿児島県本土の親戚宅や屋久島の仮設住宅暮らしが続いている。
 それにしても、昨年619日以来噴火が観測されず、警戒レベルが5のままというのは腑に落ちない。気象庁のHPによると、噴火警戒レベルは今日現在で全国34の火山で運用されているが、阿蘇山や霧島・新燃岳など7か所が「火口周辺規制」のレベル2、桜島1か所が「入山規制」のレベル3。そして「避難準備」のレベル4が無くて、口永良部島だけが「避難」のレベル5だ。調べてみると、口永良部島の場合は、1年前の爆発的噴火で、火口から1キロ以内にある地震計7基が故障したままなので、噴火警戒レベルを下げる、下げないを判断する以前に、判断するためのデータ自体が不十分だという。気象庁は火口付近の観測点2カ所の地震計を復旧させる予定だというが、箱根や御嶽山だったらあり得ないことだろう。1年前の噴火の時に、最も命が危なかったのが、地震計を設置に山に入っていた現場作業員だったということも影響しているのだろう。火砕流に追いかけられながら駆け下りてきた作業員は、どちらが顔か分からない真っ黒な状態だったというから、コストの問題というより、安全確保の面で先に進みにくいのかもしれない。とにかく、地震計の修理という復興支援体制だけでも急いでいただけないだろうか。
 さらに、新聞報道によると、口永良部島では、避難生活で健康を損ねたり、収入が減って生活再建に苦労したりしている住民もおられるという。ところが、口永良部島の噴火災害の場合、政府による公的な支援は手薄だ。熊本地震では適用されている「被災者生活再建支援法」(1998年成立)では、自然災害による全半壊家屋や長期避難世帯に100万〜300万円が支給されることになっているが、これが適用されるためには都道府県単位だと100戸以上、市町村単位では10戸以上の全壊家屋があることが要件となっており、噴火による直接的な住宅被害がなかった口永良部島には適用されていない。これまで島民には屋久島町から見舞金(世帯主に10万円、その御家族に5万円)が支給され、全国から集まった義援金約1億円が分配されたが(単純計算では一人当たり73万円)、この1年間の避難生活で消えているだろう。線引きが難しいが、全半壊家屋の数にこだわらない柔軟な支援策の制度設計も必要ではないだろうか。
そんななか、これもほとんど話題にならなかったのだが、口永良部島島民に元気を与えてくれるニュースが今年の320日に届いた。国連教育科学文化機関(ユネスコ)が、自然と人間の共生を目指す生物圏保存地域「エコパーク」への登録を決めた。屋久島の一部だけだった登録地域が、屋久島と口永良部島の2島全域に拡張されたのだ。日本の登録件数は7件(「志賀高原」、「白山」、「大台ヶ原・大峯山・大杉谷」、「綾」、「只見」「南アルプス」そして「屋久島・口永良部島」)。
 この1年間、元の生活を全く取り戻せないでいる島民に一番元気を与えたのが「ユネスコ」だったというのは、同じ九州に暮らす運命共同体の一員として、なんだか寂しい感じもする。
以前1泊させていただいた「民宿 山波見(やまなみ)」さん。電話がつながりませんが、お元気でいらっしゃいますでしょうか。

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