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マイナス金利から半年

2016年8月18日

 一昨日、ゆうちょ銀行は、200710月の郵政民営化に合わせて無料としていたゆうちょ銀行利用者どうしの送金手数料を、今年10月から9年ぶりに復活させると発表した。月3回の利用までは無料のままにするが、4回目から1回あたり123円を徴収する。お盆休みとオリンピックに気を取られているうちに、半年前の216日から始まった日銀のマイナス金利政策の副作用がじわじわと現れ始めた。
 日銀が当初描いていたのは、マイナス金利政策による市場金利の大幅低下が個人消費や設備投資を刺激して、「景気の体温」と呼ばれる物価も上昇してデフレからの脱却が進み、消費者物価上昇率2%というインフレターゲットが達成される姿だった。ところが、円安に導きたい日銀の意図とは裏腹に、マイナス金利から半年の節目を迎えた一昨日816日の円相場は、一時1ドル=100円の節目を突破した。しかも、マイナス金利を導入してから肝心の物価は上がるどころかデフレ基調を強めてしまった。消費者物価の総合指数ベースでは、20136月以降20162月まで33か月連続でデフレになることはなかったのに、今年は3月▲0.1%4月▲0.3%5月▲0.4%そして6月▲0.4%4か月連続の物価下落だ。
 マイナス金利のプラスの影響は、住宅ローン金利(10年固定型の最優遇金利)が0.5%前後に下がり、借り換えが活発で、富裕層による相続税対策としてのアパート投資も盛んで16月の貸家の新設着工戸数は20万戸弱と前年同期比で約9%増えている。問題は、住宅ローンの借り換えで浮いたお金が消費されずに貯蓄されてしまい、アパート投資で稼いだ家賃収入も貯蓄に回ってなかなか消費につながらないことである。しかも、全国的に空家対策が喫緊の課題となっている時に、空家の半分を占める賃貸用の住宅を増やしてどうするんだという問題もある。加えて、優良企業の場合、マイナス金利以降、超長期社債発行のチャンス到来だ。トヨタ自動車や味の素は償還20年の社債を、三井不動産が30年債を、JR西日本に至っては償還40年の社債を発行するなど、期間10年を超える超長期社債が相次いで発行されている(トヨタの20年債の表面利率は、なんとたったの0.343%)。これらの社債発行が、設備投資の一定の下支え役を担っているとみることもできる。
 一方、マイナス金利のマイナスの影響としては、金融機関にとって、重荷となっている。預金金利に一定の利率をオンして貸し出して利ざやを稼ぐのが銀行の本業だが、3大メガバンクは来年3月期決算で少なくとも合計3000億円程度の減益要因になると金融庁に報告している。そりゃ当然でしょう。優良企業は銀行から資金調達する間接金融より安い金利で社債を発行できる(直接金融)ので、「社債発行→資金調達→一部設備投資&残りは相対的に高い金利の借金返済」となるのは道理だ。銀行が中小企業向けの融資をチマチマと増やしても、大企業からドカンと完済されてしまえば融資残高は増えにくい。
 では、そのマイナス金利の影響は、九州の地銀経営にも大きな影響を与えているのだろうか。
 先日、マイナス金利政策が始まってから初めてとなる九州地銀18行の今年46月期の四半期決算が出そろったところを新聞各紙がまとめている。
 先ず、一般の企業の売上高に相当する「経常収益」では、18行中11行が減収になった。株高で運用益を稼げた昨年同期の減収は4行だけだったので、今年は大幅に増加している。貸出金利息についても、18行中14行が減少した。日銀福岡支店のデータを見ると、九州の銀行の貸出残高は20156月末時点で346千億円。今年6月末時点が362千億円なので1年間で16千億円程度増えてはいるのだが、利息収入は減る状況が続いている。流通業界にたとえるならば、「薄利多売」状況だ。さらに、手数料収入も含む本業のもうけを示すコア業務純益も18行中16行が減少した。
 このように、早くもマイナス金利のマイナスの影響が九州の地銀にも見られ始めているが、そんな金融機関から資金供給を受けている九州の主要企業の46月期決算はどうなっているのか。
 西日本新聞が今週月曜日に出そろった九州主要企業54社の46月期決算を集計している。経常利益が減少または赤字となった企業は、前年同期の20社から11社増えて31社。6割弱の企業が業績を悪化させている。集計した西日本新聞によると、全般的には3年前の201346月期とほぼ同様の水準だという。201346月と言えば、日銀の黒田総裁が「異次元の金融緩和」政策(第一の矢)を、中央政府では安倍首相が「機動的かつ大胆な財政出動」政策(第二の矢)を打ち出し始めた時だ。何のことは無い。201410月の黒田バズーカ第二弾の超金融緩和策や今年2月のマイナス金利政策を繰り出しても、結局はアベノミクスの始まりの頃の水準に企業決算は逆戻りしたということになる。ついでに、今の株価16千円台中盤と為替相場1ドル=100円は、2年前の黒田バズーカ第二弾の直前の水準に似ている。それにしても、九州の主要企業がそれほど焦っているようにも見えない。それも当然で、アベノミクスの好景気は「円安」と「株高」が生み出した「官製景気」みたいなものなので、それが「円高」「株安」で軽くはじけたという程度にとらえているからだ。
 このマイナス金利がスタートしてから、逆風続きだったことも影響している。216日のマイナス金利がスタートした時は、既に中国経済の先行き不透明感が高まっていて、円買いの動きが勢いづいていたのに加えて、2か月後の416日には熊本地震本震が、4か月後の6月にはイギリスのEU離脱が決まるなど、マイナス金利発動時点では思ってもいなかったことが次々と起きたのも影響しているだろう。
 もし、今の状況が続くならば、企業は年金や退職金引当金の運用が難しくなり、資金運用益や貸出金利息に期待できなくなる銀行は、ATM利用手数料や振込手数料を引き上げざるを得なくなるかもしれない。もしかすると、貸しても利益が出ないなら、むしろリスクを回避した方が良いと考えるようになってしまい、かつての貸し渋り現象が復活するようになるかもしれない。
 円安になっても、株高になっても、超低金利になっても、企業の設備投資や個人の消費活動は活発化しない。要するに、将来不安が高まっている状態では、企業は設備投資しないし、個人も消費を増やしたりはしない。企業業績が改善すれば賃金という形で下々にまでその恩恵が降りてきて、消費も活発化するという「トリクルダウン」は幻想だったという良い勉強ができたというのが夏休みの宿題の成果だ。
 9月の金融政策決定会合でこれまでの金融政策を総括的に検証することになっているので、そこでの結論が注目される。

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