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基準地価の3つの注目点

2016年9月22日

 一昨日(920日)、国土交通省は今年7月1日時点の都道府県地価(基準地価)調査結果を発表した。「商業地」の全国平均が前年に比べ0.005%と僅かながらも9年ぶりに上昇に転じた。9年ぶりということは、リーマンショック後は初めてプラスに転じたということになる。また、事前に予想された通り、三大都市圏の地価上昇率(+2.9%)を、伸び代の大きい札幌・仙台・広島・福岡(札仙広福)といった地方中枢都市の地価上昇率(+6.7%)が大きく上回った。地価上昇の牽引車が、三大都市圏から札仙広福へと変化していく様子は、ちょうど10年前のリーマンショック前の状況に似ている。
 今回の「基準地価」の注目点は3つ。
 注目点の1つ目は、11日時点で調査した「公示地価」と71日時点で調査した今回の「基準地価」で、全体の地価の動向が真逆に表れたことである。11日時点の「公示地価」では、「商業地の+0.9%」と「住宅地の▲0.2%」を合計した「全用途」は僅か+0.1%とは言え「8年ぶりの上昇」に転じたことが322日に大々的に報じられた。しかし、今回の71日時点の「基準地価」では、「商業地の+0.005%」と「住宅地の▲0.8%」を合計した「全用途」は▲0.6%である。つまり「11日時点の公示地価」と「71日時点の基準地価」において、商業地も住宅地もプラスマイナスの傾向は同じなのに、「全用途」だけが「公示地価」ではプラス、今回の「基準地価」ではマイナスとなったのである。従って、現在の日本の地価は、ざっくり言って上昇に転じたのか、下落基調が続いているのかはっきりしないことになってしまった。理由は、11日時点の「公示地価」が基本的に都市計画区域内を調査対象としているのに対して、71日時点の「基準地価」は大規模な開発が少ない都市計画地域外も調査対象としているためである。従って、大規模開発が計画される都市部だけ見ると日本の地価は底入れしたと言えるが、郡部も含めた日本全体となると、まだ地価は下落し続けているということになる。増え続ける外国人観光客から「日本の地価は上がり始めたの?」と聞かれた場合は、「都心だけはね」と答えておけば無難だろう。
 注目点の2つ目は全国的な動向で、日銀が今年216日からはじめたマイナス金利政策の効果が果たして地価に反映されているのかという点。日銀がこれだけ買いオペを続けて、マイナス金利政策にまで踏み込んで資金をじゃぶじゃぶ状態にしているにもかかわらず、三大都市圏の商業地の地価上昇率はプラス2.9%にとどまっている(昨年は2.3%)。もっと、バブリーな状況が見られてもおかしくないくらいの空前の金融緩和状態だがそんな気配は窺えない。しかも東京都のオフィス空室率は昨年8月の4.7%から今年8月の3.9%へと低下している割にはオフィス賃料(坪単価)がこの1年間で832円しか上昇していない(20158月=17,490円→20168月=18,322円)。大阪や名古屋に至っては、賃料が僅かに安くなっている。どうやら三大都市圏の地価上昇率も今ぐらいで頭打ちになる気配がうかがえ始めた。そこで旨みが低下した三大都市圏よりも、外国人観光客が増えているのにホテル客室数が決定的に不足している札幌・仙台・広島・福岡に、マイナス金利政策で行き場を失った投資マネーが向かうのも道理である。地価上昇の牽引車が、三大都市圏から札仙広福へ、さらに地方の県庁所在都市へと波及するならば、全国的に景気回復感が実感されることになるが、地方の地価が上昇に転じる気配はさっぱりうかがえない。4市を除く地方圏の地価(全用途)は▲1.4%だ。従って、マイナス金利政策の影響があるのは、現時点では地方中枢都市4市にほぼ限られている。金融政策だけで投資を活発化させて物価や地価を引き上げる政策の限界が露呈している。昨日の日銀政策決定会合では、物価上昇率が目標の2%を達成してもすぐには異次元の金融緩和をやめないという「オーバーシュート型コミットメント」と、長期金利を誘導目標に加えるという「イールドカーブコントロール」の2つの戦略が示されたが、後者については、マイナス金利の実効性が低い一方で、副作用が大きかった銀行や生損保会社などの資産運用会社にごめんなさいと謝っているようなものだ(前者は、短期決戦を止めて持久戦に持ち込むということ)。もっとも、九州の県庁所在都市については、昨年4月にJRおおいたシティが開業した大分市が+0.2%、新幹線開業に向けた駅前再開発が進む長崎市が+2.2%、桜町でのMICE施設建設が進む熊本市(完成は予定より1年先送りの2019年になったが)が+0.3%となるなど、駅前や中心市街地再開発計画が続いている県庁所在都市の商業地の地価がスポット的とは言え僅かながら上向いているのはせめてもの救いといったところ。
 3つ目の注目点は、九州、とりわけ熊本県の動向である。416日の熊本地震本震の影響がどの程度地価に反映されているかということである。確かに益城町の住宅地で全国最大の下落率(▲9.8%)となり、熊本県の住宅地の地価下落率は▲1.1%と昨年の▲0.8%より下落幅は僅かに大きくなったものの、熊本市内や県全域への影響はあまり見られず、限定的だったと言える。今後は仮設住宅やみなし仮設からの住み替え需要が確実に出てくるので、地震によるマイナス効果と将来への期待効果が相殺しあった結果だろう。
 それにしても今回の基準地価で、福岡県の商業地で最も上昇率が高かったのが「博多駅前4丁目2-25」、グーグルマップでググってみると「代々木ゼミナール福岡校」のビルだったのには驚いた。博多駅の真ん前ではなく、今年4月にオープンしたKITTE博多とそれに隣接するJRJP博多ビルの延長線上だ。博多駅界隈でもJR博多駅左前方に地価高騰の波が押し寄せている様子がよく分かる。ということは、かつて、天神地区の商業重心が岩田屋本館(現福岡パルコ)から三越ライオン前に移動したように、博多駅界隈のオフィス重心も移動するのだろうか。興味は尽きない。さらに、地価上昇率第一位だった「代ゼミ福岡校」の基準地価を遡ってみたところ再び驚いた。昨年の1,550千円/㎡が今年は1,900千円/㎡へと23%上昇したのだが、11年前2005年の940千円/㎡に比べると2倍以上だ。しかーし、20年近く前の1997年の2,750千円/㎡に比べると3割もお安い価格となっているではないか。商業地地価が上昇傾向にあるといっても、20世紀に比べるとはるかにお安い水準にとどまったままだということになる。そう考えると、新聞各紙が一面トップで報じた「商業地地価9年ぶりに0.005%上昇」という見出しは、どうでも良いニュースのように思えてくる。
 


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