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2016年9月

限界集落の現況と課題

2016年9月29日

 先週(9月21日)、国土交通省と総務省が合同で「過疎地域等条件不利地域における集落の現況把握調査」結果を発表した。過疎地域で数戸以上社会的なまとまりが形成された「集落」の現況に関する調査は、1999年度に第1回目が実施されて以来、2006年度、2010年度に続いて今回が4回目の調査となるが、今回は、過疎地域、すなわち人口減少地域でなくとも、離島半島振興対策実施地域に位置する市町村を全て調査対象地域に含めている点が従来の調査とは異なる。離島半島地域でも近年の「田園回帰」機運の高まりによって人口増に転じた地域が少なからず存在するので、調査対象地域を広げて、元気な「集落」も含めて調査するという試みは評価できる。調査は、大都市およびその周辺地域を除く1028市町村の7万5662集落を対象としている。
一部の新聞では今回の調査報告書を「限界集落調査」として報道しているが、247ページにおよぶ報告書の中に「限界集落」という言葉は1度も出てきていない。そもそも、65歳以上が5割以上を占めてるからと言って、「限界だ」、「そのうち消滅だ」と判断するのは正しくないし失礼だが、「65歳以上人口が半数以上を占める集落」といちいち表現するより短く表現できるので、ついうっかり使ってしまいがちだ。「シルバー集落」あるいは「シニア集落」程度で良いのではないか。
 で、今回の調査報告書によると、65歳以上の高齢者が住民の半数以上を占める過疎地域の集落、いわゆる限界集落は、昨年(2015年)4月時点で1万5568。多いのか少ないのか良く分からないが、5年前の2010年度の前回調査時点の10,091集落から約5,500集落増加。5年間の増加率は54%と相当の勢いで増えている。調査対象の集落全体に占める限界集落割合も15.5%から20.6%に上昇している。しかし今は、離島・半島・中山間地域で「65歳」と言えば「お若い」とか「若手」と呼ばれる時代だ。そこで75歳以上が住民の半数以上を占める集落数を調べてみると、全国で3,457集落で、全体の4.6%を占めるに過ぎない。「限界集落」という言葉が使われるようになったのは1990年代前半だが、むしろ「75歳以上人口が集落人口の半数以上を占める地域」を「限界集落」と再定義し直したほうが今風かもしれない。とは言え、多くの統計が「65歳以上」を「老年人口」としてあつかっているので、それに従わざるを得ない。
 九州7県についてみると、65歳以上の高齢者が住民の半数以上を占めるいわゆる従来型限界集落は、昨年4月時点で3205あり、全集落に占める割合は19.3%に上り、2010年度の前回調査時点の2094集落から1111集落へと53%増えている。全国をやや下回る割合で、増加テンポもほぼ同じだ。75歳以上が住民の半数以上を占める集落割合も、全国よりやや低い3.4%にとどまっている。九州の場合、離島・半島・中山間地域の面積が多い割に、限界集落割合は、意外にも、低い水準にとどまっている。限界集落割合は、中国地方では29.7%、四国地方は33.5%にも達しているのに比べると、九州の集落はまだ「若い」と言える。なお、今回の調査では、集落から役場までの距離も聞いているが、20㎞以上と答えた集落は全国では18.4%、九州でも18.8%だが、中国地方では26.0%、中部地方では28.4%にも達しており、役場まで行くのも一仕事という集落が結構多い。平成の市町村合併では旧役場を「支所」として活用しているので実害は少ないかもしれないが、重要で肝心な相談事は本庁を訪ねなくてはならないので、その辺りの不便さが集落を弱体化させないようなもう一工夫が求められていると言えるだろう。
 それにしても沖縄県の限界集落の少なさには驚く。全283集落のうち65歳以上が半数以上を占める限界集落の数は僅かに7集落のみ、割合では2.5%にとどまっている。しかも、前回調査の14集落より半減しているのだからすごい。出生率の高さと若者の移住が多いことによる。
 では、今の集落はどんな課題に直面しているのだろうか。調査では「公民館の維持が困難」とか「伝統的祭事の衰退」だとか40項目の選択肢から市町村の担当者が選ぶ設問があるが、第1位は「空き家の増加」83%、第2位は「耕作放棄地の増加」72%。普段から過疎地の大きな問題点と指摘されている通りの課題が上位を占めている。そして課題の第3位は「働き口の減少」で68%。この「働き口の減少」という項目は、前回調査での集落の課題の第1位だったが、今回調査では3位へとランクダウンしている。工場撤退や事業所廃業などで、行き着くところまで行き着いたという結果かもしれない。第4位は「商店・スーパー等の閉鎖」64%で、買い物弱者が一段と増えている様子が分かる。その一方で、「河川・湖沼・地下水等の水質汚濁」を課題として挙げた市町村は3.7%と少なく、「ごみの不法投棄の増加」も前々回調査の46%、前回調査の35%から今回は28%へと一段と低下しており、「空き巣被害等の犯罪の増加」も1.5%にとどまっており、集落の自然環境保全機能や犯罪抑止機能は未だに維持されていることがわかり、ちょっとはほっとする。
 もっとも、離島や中山間地域を訪ねて、役場職員や住民と話をしていて、ここ10年くらいで「困った困った」という声が急に増えてきたことがある。40の選択肢の中にはないが、もし選択肢にあったら2~3割程度が課題として選択しそうな項目。それは「お墓が減り始めた」ということだ。限界集落は高齢集落なので、お墓の数も増え続けているように都市住民は考えがちだが、都市部で働くようになった子供たちが、集落には数年に一度しか帰らなくなったので、お墓ごと都市部にもっていくケースが増えているという声をここ10年ぐらいで頻繁に耳にするようになった。離島や中山間地域の集落では、お墓の掃除をする「墓守サービス」がコミュニティビジネスとして成り立つ以前に、墓ごと都市部に持っていかれて、「空き家」ならぬ「空き墓地」が増えていて、地元の方が墓参りをしても寂しくなりつつあると言う。集落の課題は、時代の変化とともに多様化しているのだ。
 集落定住対策としては、集落の集団移転の推進や、農業への新規参入の促進、買い物弱者対策、空き家バンク制度の充実などが試みられる一方、交流人口の増加策として、農家民泊やグリーンツーリズム、ふるさとワーキングホリデー制度の推進も叫ばれている。しかし中央省庁の縦割り行政の延長線上で場当たり的な限界集落対策が、ちまちまと行われても、国家そのものが人口減少に直面している現在、決定打とはなりにくい。集落ごとの課題に対応した政策パッケージが求められており、それを推進するのが、参院選後、あるいは石破茂氏が担当大臣を外れてからさっぱり聞かれなくなった「地方創生」のあるべき姿ではないかと思う。国としては昨年度、全都道府県・市町村に作成させた画一的地方版総合戦略に従って、交付税積み増しを予算措置したので、後は自治体で良きに計らえということなのだろうか。75歳以上人口が半数以上を占めている集落が5%以下にとどまっている今ならば、限界集落を持続可能集落に変えるチャンスは十分あるではないか。もっともチャンスはチャンスでも「ラストチャンス」かもしれないが。
 さらに、過疎地の「限界集落」問題だけでなく、都市内部の「限界団地」や「限界町内会」の問題が深刻化していることも見逃せない。農山漁村の場合、生活空間と就業空間がオーバーラップした環境で育ったファーマーあるいはフィッシャーマンが高齢化していくので、集落内での相互扶助精神が身についた住民集団が形成されているが、企業戦士として長年働いてきた都市住民の場合、地域社会になかなか溶け込めず、相互扶助社会あるいは共助(自助と公助の中間)社会での居場所と出番が分からないリタイア者が続々と地域デビューしている。加えて40年前のニュータウンは、今、シルバータウンとなり、このままいくとゴーストタウンとなりかねない。都市部の町内会も含めたコミュニティ再構築を国家をあげて真剣に考えるべき時を迎えている。「限界」は、意外と都市部の町内会の方が深刻化しているのかもしれない。国土交通省と総務省合同でなくても良いので、「過密地域等条件有利地域における町内会の現況把握調査」をオールジャパンベースで実施していただけないでしょうか。

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基準地価の3つの注目点

2016年9月22日

 一昨日(920日)、国土交通省は今年7月1日時点の都道府県地価(基準地価)調査結果を発表した。「商業地」の全国平均が前年に比べ0.005%と僅かながらも9年ぶりに上昇に転じた。9年ぶりということは、リーマンショック後は初めてプラスに転じたということになる。また、事前に予想された通り、三大都市圏の地価上昇率(+2.9%)を、伸び代の大きい札幌・仙台・広島・福岡(札仙広福)といった地方中枢都市の地価上昇率(+6.7%)が大きく上回った。地価上昇の牽引車が、三大都市圏から札仙広福へと変化していく様子は、ちょうど10年前のリーマンショック前の状況に似ている。
 今回の「基準地価」の注目点は3つ。
 注目点の1つ目は、11日時点で調査した「公示地価」と71日時点で調査した今回の「基準地価」で、全体の地価の動向が真逆に表れたことである。11日時点の「公示地価」では、「商業地の+0.9%」と「住宅地の▲0.2%」を合計した「全用途」は僅か+0.1%とは言え「8年ぶりの上昇」に転じたことが322日に大々的に報じられた。しかし、今回の71日時点の「基準地価」では、「商業地の+0.005%」と「住宅地の▲0.8%」を合計した「全用途」は▲0.6%である。つまり「11日時点の公示地価」と「71日時点の基準地価」において、商業地も住宅地もプラスマイナスの傾向は同じなのに、「全用途」だけが「公示地価」ではプラス、今回の「基準地価」ではマイナスとなったのである。従って、現在の日本の地価は、ざっくり言って上昇に転じたのか、下落基調が続いているのかはっきりしないことになってしまった。理由は、11日時点の「公示地価」が基本的に都市計画区域内を調査対象としているのに対して、71日時点の「基準地価」は大規模な開発が少ない都市計画地域外も調査対象としているためである。従って、大規模開発が計画される都市部だけ見ると日本の地価は底入れしたと言えるが、郡部も含めた日本全体となると、まだ地価は下落し続けているということになる。増え続ける外国人観光客から「日本の地価は上がり始めたの?」と聞かれた場合は、「都心だけはね」と答えておけば無難だろう。
 注目点の2つ目は全国的な動向で、日銀が今年216日からはじめたマイナス金利政策の効果が果たして地価に反映されているのかという点。日銀がこれだけ買いオペを続けて、マイナス金利政策にまで踏み込んで資金をじゃぶじゃぶ状態にしているにもかかわらず、三大都市圏の商業地の地価上昇率はプラス2.9%にとどまっている(昨年は2.3%)。もっと、バブリーな状況が見られてもおかしくないくらいの空前の金融緩和状態だがそんな気配は窺えない。しかも東京都のオフィス空室率は昨年8月の4.7%から今年8月の3.9%へと低下している割にはオフィス賃料(坪単価)がこの1年間で832円しか上昇していない(20158月=17,490円→20168月=18,322円)。大阪や名古屋に至っては、賃料が僅かに安くなっている。どうやら三大都市圏の地価上昇率も今ぐらいで頭打ちになる気配がうかがえ始めた。そこで旨みが低下した三大都市圏よりも、外国人観光客が増えているのにホテル客室数が決定的に不足している札幌・仙台・広島・福岡に、マイナス金利政策で行き場を失った投資マネーが向かうのも道理である。地価上昇の牽引車が、三大都市圏から札仙広福へ、さらに地方の県庁所在都市へと波及するならば、全国的に景気回復感が実感されることになるが、地方の地価が上昇に転じる気配はさっぱりうかがえない。4市を除く地方圏の地価(全用途)は▲1.4%だ。従って、マイナス金利政策の影響があるのは、現時点では地方中枢都市4市にほぼ限られている。金融政策だけで投資を活発化させて物価や地価を引き上げる政策の限界が露呈している。昨日の日銀政策決定会合では、物価上昇率が目標の2%を達成してもすぐには異次元の金融緩和をやめないという「オーバーシュート型コミットメント」と、長期金利を誘導目標に加えるという「イールドカーブコントロール」の2つの戦略が示されたが、後者については、マイナス金利の実効性が低い一方で、副作用が大きかった銀行や生損保会社などの資産運用会社にごめんなさいと謝っているようなものだ(前者は、短期決戦を止めて持久戦に持ち込むということ)。もっとも、九州の県庁所在都市については、昨年4月にJRおおいたシティが開業した大分市が+0.2%、新幹線開業に向けた駅前再開発が進む長崎市が+2.2%、桜町でのMICE施設建設が進む熊本市(完成は予定より1年先送りの2019年になったが)が+0.3%となるなど、駅前や中心市街地再開発計画が続いている県庁所在都市の商業地の地価がスポット的とは言え僅かながら上向いているのはせめてもの救いといったところ。
 3つ目の注目点は、九州、とりわけ熊本県の動向である。416日の熊本地震本震の影響がどの程度地価に反映されているかということである。確かに益城町の住宅地で全国最大の下落率(▲9.8%)となり、熊本県の住宅地の地価下落率は▲1.1%と昨年の▲0.8%より下落幅は僅かに大きくなったものの、熊本市内や県全域への影響はあまり見られず、限定的だったと言える。今後は仮設住宅やみなし仮設からの住み替え需要が確実に出てくるので、地震によるマイナス効果と将来への期待効果が相殺しあった結果だろう。
 それにしても今回の基準地価で、福岡県の商業地で最も上昇率が高かったのが「博多駅前4丁目2-25」、グーグルマップでググってみると「代々木ゼミナール福岡校」のビルだったのには驚いた。博多駅の真ん前ではなく、今年4月にオープンしたKITTE博多とそれに隣接するJRJP博多ビルの延長線上だ。博多駅界隈でもJR博多駅左前方に地価高騰の波が押し寄せている様子がよく分かる。ということは、かつて、天神地区の商業重心が岩田屋本館(現福岡パルコ)から三越ライオン前に移動したように、博多駅界隈のオフィス重心も移動するのだろうか。興味は尽きない。さらに、地価上昇率第一位だった「代ゼミ福岡校」の基準地価を遡ってみたところ再び驚いた。昨年の1,550千円/㎡が今年は1,900千円/㎡へと23%上昇したのだが、11年前2005年の940千円/㎡に比べると2倍以上だ。しかーし、20年近く前の1997年の2,750千円/㎡に比べると3割もお安い価格となっているではないか。商業地地価が上昇傾向にあるといっても、20世紀に比べるとはるかにお安い水準にとどまったままだということになる。そう考えると、新聞各紙が一面トップで報じた「商業地地価9年ぶりに0.005%上昇」という見出しは、どうでも良いニュースのように思えてくる。
 


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いまいち注目度が低い国境離島新法

2016年9月15日

 熊本地震発生から5か月が経過した。地震当日、あるいはその後数日間は九州全域が大混乱していたので、あまり話題にならなかったものの、国会では重要な法案がいくつも可決されている。1つは以前このコーナーでも取り上げたもので、地域活性化を後押しする「地方創生推進交付金」や、企業が自治体に寄付すると減税となる「企業版ふるさと納税」に関する規定を盛り込んだ「改正地域再生法」で、もう1つは、超党派の議員立法により可決された重要な法案で、「有人国境離島地域保全特別措置法」、いわゆる「国境離島新法」だ。来年4月に施行される。
 日本の領海を含む排他的経済水域(EEZ)の面積は、世界6位と広大だ。その基点となっているのが「島」だ。
 日本には305の(法律で指定された)有人離島があるが、そのうちのほぼ半数の有人離島は九州と沖縄にある。また、離島の人口が全国に占める割合は0.5%に過ぎないが、県の人口に占める離島人口割合を調べてみると、鹿児島県、長崎県そして沖縄県の3県は、おおよそ1割を占めている。さらに、離島の面積が都道府県の面積に占める割合を調べてみると、全国の割合は僅か4%に過ぎないのだが、鹿児島県は3割弱、長崎県は4割弱、沖縄県に至っては5割弱にも達している。日本の離島問題というのは実は九州の離島問題と置き換えても構わないくらいだ。従って、九州の国境離島の無人化を防ぐことは国益の確保に直結する。もしも国境の島々が無人になれば、安全保障上の懸念が高まる。
 今から43年前の1973年に無人化した五島列島の葛島(かずらじま)には中国人の集団密航事件が発生したことがあるし、沖縄県の尖閣諸島は、戦前は鰹節工場などがあり、最盛期には200人超の住民がいたが、事業撤退によって無人化したことが、現在の安全保障上の大問題につながっている。国境離島が無人化してしまったため、維持管理コストが莫大なものとなった典型例である。
 では今まで、どんな離島管理政策が展開されてきたのだろうか。
 日本の離島振興政策は、1953年(昭和28 年)に制定された「離島振興法」から始まり、10年ごとに改正・延長がなされてきた。離島振興法は国の補助事業の補助率を高めて、電気・水道の導入をはじめ、港湾・漁港・道路・空港整備や治山治水事業などによって、産業と生活のインフラ整備を進めることを目的としてきた。平たく言えば、ハード事業(公共事業)一辺倒だった。ところが 2012 年(平成 24 年)の改正では、ソフト事業重視への大転換が図られた。具体的には、離島の活性化と定住の促進を図る自治体・民間のソフト事業に国が直接補助を行う「離島活性化交付金制度(国土交通省)」や、高等学校のない離島の生徒に交通費・寄宿費を支援する「離島高校生修学支援制度(文部科学省)」、島内で出産や健診ができない離島の妊婦に国が交通費・宿泊費などを支援する「離島妊婦支援制度(厚生労働省)」、国がガソリン小売事業者に直接補助する「離島ガソリン流通コスト支援制度(経済産業省)」、国境監視や海難救助など離島の多面的 機能維持・増進を図るための「離島漁業再生支援交付金制度(農林水産省)」などが実施されている。
 今回の国境離島新法でもソフト事業を重視しており、国の努力義務として、国境離島への行政機関の設置や、必要に応じた土地の買い取りなどを定めて、フェリー・航空料金の引き下げや、雇用機会の拡充などにも取り組む計画だ。新法で指定されたのは15の有人国境離島地域だが、そのうち過半数の8地域は九州の離島だ(長崎県の対馬、壱岐、五島列島、鹿児島県の甑島、種子島、屋久島、三島、トカラ列島、既に別の特措法がある沖縄県や奄美群島などは対象としていない)。
 今年成立した国境離島新法を契機として、国境に位置する離島が領土・領海・領空の確保に絶大な貢献をしているという現実を再認識したいと思う。その場合、一つ私たちが忘れてはならないこととして、国境離島は領土・領海・領空を守る盾の役割を果たしてきたと同時に、歴史的には海外の新しい文化を受け入れるゲートウェイとしての役割も果たしてきたということだ。東京目線で見る国境離島は「端っこの過疎地」に過ぎないかもしれないが、グローバル化という観点では「最先端の橋頭堡」としての役割を果たしてきたのである。本州の大都市住民にこそ、国境離島新法が来年4月から始まることをもっと知って欲しいと思う。

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九州の文化芸術力

2016年9月8日
 先ほどから始まったリオパラリンピック開会式の模様も気になるところだが、4年後の東京オリンピック・パラリンピックに向けた準備も九州としては進めなくてはならない。スポーツの分野では、本番前のキャンプ地としての受け入れ体制整備が真っ先に浮かぶが、実は、「文化芸術」の分野でも相当の体制整備が必要となりそうだ。
 2020年オリパラに関しては、いつになく「文化庁」の鼻息が荒い。HPを覗くと、
 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会においては,スポーツの祭典とともに、文化芸術の祭典として、史上最大規模の文化プログラムに取り組みます。全国津々浦々で魅力ある文化プログラムを展開し、国内外の人々を日本文化で魅了したいと考えています。」
 「スポーツ」の祭典を契機として「文化芸術」も併せて振興しようという試みの参考としているのは2012年のロンドン大会だ。大会の4年前の2008年から、英国全土1000か所以上の地域で、音楽、演劇、ダンス、美術、映画、ファッション等を国内外に紹介する文化芸術イベントが18万件開催され、204の国と地域から4464名のアーティスト(うち806名は障害者)が参加して、観客数は4,340万人にも達した。このイベントを通して、イギリス国民の81%が「自国を誇りに思うようになった」とアンケートに回答している。もしかすると、この時のナショナリズムの高まりが、その後のイギリスのEU離脱機運を高めるのに寄与したのかもしれない。
 では、日本が目指す「文化芸術立国の姿」とはどんな姿なのか。文化庁は基本構想の中で4つの姿を掲げている。①あらゆる人々が鑑賞や創作に参加できる機会がある。②2020年東京大会を契機とする文化プログラムが全国展開されている。③被災地の復興の姿をはじめ、全国津々浦々から地域の文化芸術の魅力を発信している。④文化芸術関係の新たな雇用や産業が現在よりも大幅に創出されている
 つまり、スポーツ分野だけじゃなくて、オリパラの舞台となる東京だけじゃなくて、地方の文化芸術分野にもそれなりの「予算」が計上されそうな気配だ(オリンピック関連予算が増え続けるのは困りものだが)。さらに「④新たな雇用や産業が現在よりも大幅に創出されている」というからには、芸術文化が地方でもカネになる仕組みを作りましょうということになる。

 「文化で金儲け」という発想は、文化人の方々から叱られるかもしれないが、とても重要な視点だ。1つとても印象に残っているインタビューの経験がある。
 20年前に熊本県立劇場を訪ねて、元NHKのアナウンサーで定年退職後に館長を務めておられた鈴木健二さんに尋ねた。「文化で金儲けを考えるのは邪道ですか?」と。すると「とんでもない。金儲けができなければ、文化は維持できません。子供向けのアニメを上映したり、若い人向けのアイドルのコンサートを企画したりして大いに稼いで、その稼いだお金を、注目度が低いけれどももっと知ってほしい芸術文化や、守って次の世代に引き継がなくてはならない郷土芸能の振興に配分しなくてはなりません」という答えが返ってきて、すっきりしたことを覚えている。
 自然や歴史や文化芸術といった「非経済財」をフル活用して2020年の東京オリパラの目標に向かわなくてはならないが、九州の場合、課題も少なくない。
1つは、九州の場合、活用すべき「文化」に関連する地域資源が多過ぎて的を絞れない(代表例は世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産」)。
 2つには、「自然・歴史・文化」の演出力が不足している。
 3つには、地域の文化芸術を担っていく「人材育成力」と「資金調達力」が弱い(担い手が必ずしも地域にいなくてはならないのか、「自助」と「公助」に頼りすぎで「共助」が弱体化していることを反省する必要はないのか、クラウドファンディングは活用できないのか等々)。
こういった諸課題は以前から指摘されていて、それらを解決して地域の自然・歴史・伝統芸能を楽しんでもらおうという試みは古くからトライされてきたが、全国の注目を集めて、比較的うまくいった事例として挙げられるのが、1999年から始まった「別府八湯ウォーク」や、ちょうど10年前の2006年に7か月間大々的に開催された「長崎さるく博」である。両者が画期的だったのは以下の点。
 ① 観光の主流が、自由に移動する個人旅行に変わったことに対応している。
 ② 市民の中から観光ボランティアガイドを育てる市民参加型かつ既存施設活用型の観光イベントである。
 ③ 「さるく」ことがメインなので、今の健康ブームに対応している。
  この「別府八湯ウォーク」や「長崎さるく」は、あまり知られていないが、その後「九州さるく」として展開され続けているので、ここに芸術文化の要素を取り込んでいく工夫があっても面白いのではないか。
日本は一昨年まで、「貿易は黒字だが、海外旅行収支は赤字」という状況が続いていたが、昨年、それが45年振りに逆転した。「人を呼んで栄える国」へと変化しつつあるなか、九州もそれにふさわしい体制を作る必要がある。東京オリパラへのカウントダウンが始まった今、1年後、2年後、3年後に向けた目標設定をして、2020年に九州の芸術文化が広く世界に知られるような体制づくりが求められている。


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総務省の「ふるさとワーキングホリデー」制度

2016年9月1日

 総務省は、先日、都市部の学生や若手社員が長期休暇を利用して1週間から1カ月ほど地方で働く「ふるさとワーキングホリデー」制度を2017年から立ち上げると発表した。地方志向の大学生向けインターンシップ促進策と大企業の新入社員の地方研修を推進しようということらしい。制度の利用を希望する都道府県は市町村と連携して数百人程度の参加者の住まいや就業先を斡旋し、地方で主に「製造業」や「観光業」、そして「農業」に従事してもらう。最終的には人口減少が加速する地方への移住を促す狙いがある。
通常のワーキングホリデーは、若者が海外で働きながら勉強する制度で、語学留学が多い。日本政府とワーキングホリデー査証(ビザ)に関する協定を結んでいるのは16か国・地域(発効順にオーストラリア、ニュージーランド、カナダ、韓国、フランス、ドイツ、イギリス、アイルランド、デンマーク、台湾、香港、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スロバキア、オーストリア)ある。総務省はこの制度の国内版として大都市在住の若者の都市農村交流を活発化したいという意向のようだ。
 この新しい制度に対して、国は2016年度補正予算案と2017年度予算の概算要求に、都市と地方の交流事業として計22億円を盛り込んだ。先進的に取り組む自治体に対して費用を助成する。ただ、参加者の滞在費は原則として仕事の収入で賄ってもらうのだと言う。果たして滞在費を賄うだけの賃金を支払えるだけの事業所が地方にどれだけあるのか。また、人材育成につながるような研修事業を提供できる事業所がどれだけあるのかも未知数だ。今現在、有償でインターン学生を受け入れている企業は地方にも多いが、実際にインターンシップを経験した学生に聞くと「イベントの企画立案に参加するつもりだったけど、インターン期間の1週間、イベント会場で朝から夕方までずっと焼きそばを焼き続けてインターンは終わった」という事例もあるくらいだ。体の良い「バイト学生」としての扱いに終わるという「残念ながっかりインターンシップ」があるのも事実なので、「ふるさとワーキングホリデー」の場合も、自治体が質の良い就業先をどれだけ斡旋できるかが勝負どころとなるだろう。
 今回の「ふるさとワーキングホリデー」制度のような都市と地方の交流事業としてまず頭に浮かぶのは、「グリーンツーリズム」だ。費用を参加者自身が負担して短期的な観光旅行を兼ねた農業体験を通して住民との「ふれあい」を楽しむというグリーンツーリズムの場合は、「観光旅行」がメインで、「仕事」つまり「体験農業」は有料のオプション商品として位置づけられるが、今回の「ふるさとワーキングホリデー」制度の場合は、参加者が「労働」を提供して、受入事業所がその対価を払う。つまり「参加者はお客様ではない」という発想だ。もう一歩踏み込んで、「地方や農村社会の生活文化」を学んでもらおうというという点が異なる。
 そんな「ふるさとワーキングホリデー」の発想の原点は、「農村ワーキングホリデー」にある。そして日本で最初に「農村ワーキングホリデー」に取り組んだ自治体は、総人口1000人強で、面積の96%を山林が占める「宮崎県西米良村」だ。宮崎県西部、熊本県との県境に位置する西米良村は、都市住民との交流を村の活性化につなげようと、今から18年前の1998年(平成10年)に全国に先駆けて「西米良型ワーキングホリデー制度」を始めた。運営主体は第3セクター「株式会社 米良の庄」。受け入れ農家の状況を確認しながら、田舎暮らしと体験農業を希望する大都市の参加希望者に、人手を必要とする農家を紹介した。参加者は農作業の対価として得た賃金を使って村に滞在する。参加者の報酬は1人1日(7時間労働)、4,600円。時給664円。報酬をもらえるかわりに往復交通費も宿泊費も食費も全て参加者自己負担となっている。制度発足当初、5戸だった受け入れ先は現在、ピーマンやユズなどの生産農家や食品加工所を合わせて10件ほどに増えている。双子キャンプ村のコテージに113,000円(5人・10人用)で宿泊でき、滞在費用はほとんどかけずに余暇を過ごすことも可能だ。
 これまでに420人が農村ワーキングホリデーを体験しているが、西米良村自身も驚いたのは、当初想定していた参加者は中高年層だったが、実際の参加者の過半数が比較的若い世代の独身女性で占められていたこと。女性活躍社会は、実は地方で進んでいるのかもしれない。
この西米良村に続けと農村ワーキングホリデー制度を始めたのが、人口が西米良村の100倍の10万人強の長野県飯田市。鉄道駅や高速道路にも恵まれていて、将来はリニア中央新幹線駅も設置予定だ。こちらは受入農家数が100戸以上あり、これまでの参加者数は6,300人。ただ、西米良村と異なるのは、数日間、農家と寝食を共にして、ボランティアとして農作業の手伝いをするということ。報酬がない分、宿泊費も食費も受け入れ農家が負担するというのが飯田市の仕組みだ。
 全国の「田舎暮らしファン」の間では、この「西米良村型」と「飯田市型」でどちらの農村ワーホリが良いかという議論がこれまで交わされてきたのだが、ここに来て突然浮上したのが総務省の「ふるさとワーキングホリデー」制度話だ。今まで農家と市町村が知恵を出し合って試行錯誤してきた「農村ワーキングホリデー」を参考にして、中央省庁が手柄の横取りのように画一的な制度を全国展開し始めるというのだから、「田舎暮らしファン」にとっては面白くない。
 一方、都市農村交流にあまり関心のない方からは、ネット上で批判の声が殺到している。「休暇を活用してまで働くことを国が勧めるというのはおかしい」(ワーキングホリデーと言うよりワーカホリック)とか、「地方が労働力を安く使おうとしているだけなのに、なぜ政府が税金を投入するのか」といった否定的な意見だ。
 要するに、今のところ「田舎暮らしファン」からも、そうでない人からも総スカン状態にあるので、総務省は制度をスタートする前にもっと丁寧に説明する必要があるだろう。そもそもネーミング的に「ふるさと」と名付けたのは「ふるさと納税」で総務省が味をしめたからだろうが、その「ふるさと納税」自体も制度設計がおかしいのではないかと批判されている。加えて、そもそも、農村の活性化策なら、本来業務としてこれまでも支援してきた農林水産省主導で提案すべき事案ではないかという気もする。
 賛否両論渦巻く中でスタートしそうな「ふるさとワーキングホリデー」制度だが、国が全国一律に都市農村交流を推進するのではなく、やる気のある地方独自の多様な取り組みを国がサポートする程度にとどめておいたほうが「地方創生」時代にマッチするのではないだろうか。

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