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いまいち注目度が低い国境離島新法

2016年9月15日

 熊本地震発生から5か月が経過した。地震当日、あるいはその後数日間は九州全域が大混乱していたので、あまり話題にならなかったものの、国会では重要な法案がいくつも可決されている。1つは以前このコーナーでも取り上げたもので、地域活性化を後押しする「地方創生推進交付金」や、企業が自治体に寄付すると減税となる「企業版ふるさと納税」に関する規定を盛り込んだ「改正地域再生法」で、もう1つは、超党派の議員立法により可決された重要な法案で、「有人国境離島地域保全特別措置法」、いわゆる「国境離島新法」だ。来年4月に施行される。
 日本の領海を含む排他的経済水域(EEZ)の面積は、世界6位と広大だ。その基点となっているのが「島」だ。
 日本には305の(法律で指定された)有人離島があるが、そのうちのほぼ半数の有人離島は九州と沖縄にある。また、離島の人口が全国に占める割合は0.5%に過ぎないが、県の人口に占める離島人口割合を調べてみると、鹿児島県、長崎県そして沖縄県の3県は、おおよそ1割を占めている。さらに、離島の面積が都道府県の面積に占める割合を調べてみると、全国の割合は僅か4%に過ぎないのだが、鹿児島県は3割弱、長崎県は4割弱、沖縄県に至っては5割弱にも達している。日本の離島問題というのは実は九州の離島問題と置き換えても構わないくらいだ。従って、九州の国境離島の無人化を防ぐことは国益の確保に直結する。もしも国境の島々が無人になれば、安全保障上の懸念が高まる。
 今から43年前の1973年に無人化した五島列島の葛島(かずらじま)には中国人の集団密航事件が発生したことがあるし、沖縄県の尖閣諸島は、戦前は鰹節工場などがあり、最盛期には200人超の住民がいたが、事業撤退によって無人化したことが、現在の安全保障上の大問題につながっている。国境離島が無人化してしまったため、維持管理コストが莫大なものとなった典型例である。
 では今まで、どんな離島管理政策が展開されてきたのだろうか。
 日本の離島振興政策は、1953年(昭和28 年)に制定された「離島振興法」から始まり、10年ごとに改正・延長がなされてきた。離島振興法は国の補助事業の補助率を高めて、電気・水道の導入をはじめ、港湾・漁港・道路・空港整備や治山治水事業などによって、産業と生活のインフラ整備を進めることを目的としてきた。平たく言えば、ハード事業(公共事業)一辺倒だった。ところが 2012 年(平成 24 年)の改正では、ソフト事業重視への大転換が図られた。具体的には、離島の活性化と定住の促進を図る自治体・民間のソフト事業に国が直接補助を行う「離島活性化交付金制度(国土交通省)」や、高等学校のない離島の生徒に交通費・寄宿費を支援する「離島高校生修学支援制度(文部科学省)」、島内で出産や健診ができない離島の妊婦に国が交通費・宿泊費などを支援する「離島妊婦支援制度(厚生労働省)」、国がガソリン小売事業者に直接補助する「離島ガソリン流通コスト支援制度(経済産業省)」、国境監視や海難救助など離島の多面的 機能維持・増進を図るための「離島漁業再生支援交付金制度(農林水産省)」などが実施されている。
 今回の国境離島新法でもソフト事業を重視しており、国の努力義務として、国境離島への行政機関の設置や、必要に応じた土地の買い取りなどを定めて、フェリー・航空料金の引き下げや、雇用機会の拡充などにも取り組む計画だ。新法で指定されたのは15の有人国境離島地域だが、そのうち過半数の8地域は九州の離島だ(長崎県の対馬、壱岐、五島列島、鹿児島県の甑島、種子島、屋久島、三島、トカラ列島、既に別の特措法がある沖縄県や奄美群島などは対象としていない)。
 今年成立した国境離島新法を契機として、国境に位置する離島が領土・領海・領空の確保に絶大な貢献をしているという現実を再認識したいと思う。その場合、一つ私たちが忘れてはならないこととして、国境離島は領土・領海・領空を守る盾の役割を果たしてきたと同時に、歴史的には海外の新しい文化を受け入れるゲートウェイとしての役割も果たしてきたということだ。東京目線で見る国境離島は「端っこの過疎地」に過ぎないかもしれないが、グローバル化という観点では「最先端の橋頭堡」としての役割を果たしてきたのである。本州の大都市住民にこそ、国境離島新法が来年4月から始まることをもっと知って欲しいと思う。

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