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限界集落の現況と課題

2016年9月29日

 先週(9月21日)、国土交通省と総務省が合同で「過疎地域等条件不利地域における集落の現況把握調査」結果を発表した。過疎地域で数戸以上社会的なまとまりが形成された「集落」の現況に関する調査は、1999年度に第1回目が実施されて以来、2006年度、2010年度に続いて今回が4回目の調査となるが、今回は、過疎地域、すなわち人口減少地域でなくとも、離島半島振興対策実施地域に位置する市町村を全て調査対象地域に含めている点が従来の調査とは異なる。離島半島地域でも近年の「田園回帰」機運の高まりによって人口増に転じた地域が少なからず存在するので、調査対象地域を広げて、元気な「集落」も含めて調査するという試みは評価できる。調査は、大都市およびその周辺地域を除く1028市町村の7万5662集落を対象としている。
一部の新聞では今回の調査報告書を「限界集落調査」として報道しているが、247ページにおよぶ報告書の中に「限界集落」という言葉は1度も出てきていない。そもそも、65歳以上が5割以上を占めてるからと言って、「限界だ」、「そのうち消滅だ」と判断するのは正しくないし失礼だが、「65歳以上人口が半数以上を占める集落」といちいち表現するより短く表現できるので、ついうっかり使ってしまいがちだ。「シルバー集落」あるいは「シニア集落」程度で良いのではないか。
 で、今回の調査報告書によると、65歳以上の高齢者が住民の半数以上を占める過疎地域の集落、いわゆる限界集落は、昨年(2015年)4月時点で1万5568。多いのか少ないのか良く分からないが、5年前の2010年度の前回調査時点の10,091集落から約5,500集落増加。5年間の増加率は54%と相当の勢いで増えている。調査対象の集落全体に占める限界集落割合も15.5%から20.6%に上昇している。しかし今は、離島・半島・中山間地域で「65歳」と言えば「お若い」とか「若手」と呼ばれる時代だ。そこで75歳以上が住民の半数以上を占める集落数を調べてみると、全国で3,457集落で、全体の4.6%を占めるに過ぎない。「限界集落」という言葉が使われるようになったのは1990年代前半だが、むしろ「75歳以上人口が集落人口の半数以上を占める地域」を「限界集落」と再定義し直したほうが今風かもしれない。とは言え、多くの統計が「65歳以上」を「老年人口」としてあつかっているので、それに従わざるを得ない。
 九州7県についてみると、65歳以上の高齢者が住民の半数以上を占めるいわゆる従来型限界集落は、昨年4月時点で3205あり、全集落に占める割合は19.3%に上り、2010年度の前回調査時点の2094集落から1111集落へと53%増えている。全国をやや下回る割合で、増加テンポもほぼ同じだ。75歳以上が住民の半数以上を占める集落割合も、全国よりやや低い3.4%にとどまっている。九州の場合、離島・半島・中山間地域の面積が多い割に、限界集落割合は、意外にも、低い水準にとどまっている。限界集落割合は、中国地方では29.7%、四国地方は33.5%にも達しているのに比べると、九州の集落はまだ「若い」と言える。なお、今回の調査では、集落から役場までの距離も聞いているが、20㎞以上と答えた集落は全国では18.4%、九州でも18.8%だが、中国地方では26.0%、中部地方では28.4%にも達しており、役場まで行くのも一仕事という集落が結構多い。平成の市町村合併では旧役場を「支所」として活用しているので実害は少ないかもしれないが、重要で肝心な相談事は本庁を訪ねなくてはならないので、その辺りの不便さが集落を弱体化させないようなもう一工夫が求められていると言えるだろう。
 それにしても沖縄県の限界集落の少なさには驚く。全283集落のうち65歳以上が半数以上を占める限界集落の数は僅かに7集落のみ、割合では2.5%にとどまっている。しかも、前回調査の14集落より半減しているのだからすごい。出生率の高さと若者の移住が多いことによる。
 では、今の集落はどんな課題に直面しているのだろうか。調査では「公民館の維持が困難」とか「伝統的祭事の衰退」だとか40項目の選択肢から市町村の担当者が選ぶ設問があるが、第1位は「空き家の増加」83%、第2位は「耕作放棄地の増加」72%。普段から過疎地の大きな問題点と指摘されている通りの課題が上位を占めている。そして課題の第3位は「働き口の減少」で68%。この「働き口の減少」という項目は、前回調査での集落の課題の第1位だったが、今回調査では3位へとランクダウンしている。工場撤退や事業所廃業などで、行き着くところまで行き着いたという結果かもしれない。第4位は「商店・スーパー等の閉鎖」64%で、買い物弱者が一段と増えている様子が分かる。その一方で、「河川・湖沼・地下水等の水質汚濁」を課題として挙げた市町村は3.7%と少なく、「ごみの不法投棄の増加」も前々回調査の46%、前回調査の35%から今回は28%へと一段と低下しており、「空き巣被害等の犯罪の増加」も1.5%にとどまっており、集落の自然環境保全機能や犯罪抑止機能は未だに維持されていることがわかり、ちょっとはほっとする。
 もっとも、離島や中山間地域を訪ねて、役場職員や住民と話をしていて、ここ10年くらいで「困った困った」という声が急に増えてきたことがある。40の選択肢の中にはないが、もし選択肢にあったら2~3割程度が課題として選択しそうな項目。それは「お墓が減り始めた」ということだ。限界集落は高齢集落なので、お墓の数も増え続けているように都市住民は考えがちだが、都市部で働くようになった子供たちが、集落には数年に一度しか帰らなくなったので、お墓ごと都市部にもっていくケースが増えているという声をここ10年ぐらいで頻繁に耳にするようになった。離島や中山間地域の集落では、お墓の掃除をする「墓守サービス」がコミュニティビジネスとして成り立つ以前に、墓ごと都市部に持っていかれて、「空き家」ならぬ「空き墓地」が増えていて、地元の方が墓参りをしても寂しくなりつつあると言う。集落の課題は、時代の変化とともに多様化しているのだ。
 集落定住対策としては、集落の集団移転の推進や、農業への新規参入の促進、買い物弱者対策、空き家バンク制度の充実などが試みられる一方、交流人口の増加策として、農家民泊やグリーンツーリズム、ふるさとワーキングホリデー制度の推進も叫ばれている。しかし中央省庁の縦割り行政の延長線上で場当たり的な限界集落対策が、ちまちまと行われても、国家そのものが人口減少に直面している現在、決定打とはなりにくい。集落ごとの課題に対応した政策パッケージが求められており、それを推進するのが、参院選後、あるいは石破茂氏が担当大臣を外れてからさっぱり聞かれなくなった「地方創生」のあるべき姿ではないかと思う。国としては昨年度、全都道府県・市町村に作成させた画一的地方版総合戦略に従って、交付税積み増しを予算措置したので、後は自治体で良きに計らえということなのだろうか。75歳以上人口が半数以上を占めている集落が5%以下にとどまっている今ならば、限界集落を持続可能集落に変えるチャンスは十分あるではないか。もっともチャンスはチャンスでも「ラストチャンス」かもしれないが。
 さらに、過疎地の「限界集落」問題だけでなく、都市内部の「限界団地」や「限界町内会」の問題が深刻化していることも見逃せない。農山漁村の場合、生活空間と就業空間がオーバーラップした環境で育ったファーマーあるいはフィッシャーマンが高齢化していくので、集落内での相互扶助精神が身についた住民集団が形成されているが、企業戦士として長年働いてきた都市住民の場合、地域社会になかなか溶け込めず、相互扶助社会あるいは共助(自助と公助の中間)社会での居場所と出番が分からないリタイア者が続々と地域デビューしている。加えて40年前のニュータウンは、今、シルバータウンとなり、このままいくとゴーストタウンとなりかねない。都市部の町内会も含めたコミュニティ再構築を国家をあげて真剣に考えるべき時を迎えている。「限界」は、意外と都市部の町内会の方が深刻化しているのかもしれない。国土交通省と総務省合同でなくても良いので、「過密地域等条件有利地域における町内会の現況把握調査」をオールジャパンベースで実施していただけないでしょうか。

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