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九州の文化芸術力

2016年9月8日
 先ほどから始まったリオパラリンピック開会式の模様も気になるところだが、4年後の東京オリンピック・パラリンピックに向けた準備も九州としては進めなくてはならない。スポーツの分野では、本番前のキャンプ地としての受け入れ体制整備が真っ先に浮かぶが、実は、「文化芸術」の分野でも相当の体制整備が必要となりそうだ。
 2020年オリパラに関しては、いつになく「文化庁」の鼻息が荒い。HPを覗くと、
 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会においては,スポーツの祭典とともに、文化芸術の祭典として、史上最大規模の文化プログラムに取り組みます。全国津々浦々で魅力ある文化プログラムを展開し、国内外の人々を日本文化で魅了したいと考えています。」
 「スポーツ」の祭典を契機として「文化芸術」も併せて振興しようという試みの参考としているのは2012年のロンドン大会だ。大会の4年前の2008年から、英国全土1000か所以上の地域で、音楽、演劇、ダンス、美術、映画、ファッション等を国内外に紹介する文化芸術イベントが18万件開催され、204の国と地域から4464名のアーティスト(うち806名は障害者)が参加して、観客数は4,340万人にも達した。このイベントを通して、イギリス国民の81%が「自国を誇りに思うようになった」とアンケートに回答している。もしかすると、この時のナショナリズムの高まりが、その後のイギリスのEU離脱機運を高めるのに寄与したのかもしれない。
 では、日本が目指す「文化芸術立国の姿」とはどんな姿なのか。文化庁は基本構想の中で4つの姿を掲げている。①あらゆる人々が鑑賞や創作に参加できる機会がある。②2020年東京大会を契機とする文化プログラムが全国展開されている。③被災地の復興の姿をはじめ、全国津々浦々から地域の文化芸術の魅力を発信している。④文化芸術関係の新たな雇用や産業が現在よりも大幅に創出されている
 つまり、スポーツ分野だけじゃなくて、オリパラの舞台となる東京だけじゃなくて、地方の文化芸術分野にもそれなりの「予算」が計上されそうな気配だ(オリンピック関連予算が増え続けるのは困りものだが)。さらに「④新たな雇用や産業が現在よりも大幅に創出されている」というからには、芸術文化が地方でもカネになる仕組みを作りましょうということになる。

 「文化で金儲け」という発想は、文化人の方々から叱られるかもしれないが、とても重要な視点だ。1つとても印象に残っているインタビューの経験がある。
 20年前に熊本県立劇場を訪ねて、元NHKのアナウンサーで定年退職後に館長を務めておられた鈴木健二さんに尋ねた。「文化で金儲けを考えるのは邪道ですか?」と。すると「とんでもない。金儲けができなければ、文化は維持できません。子供向けのアニメを上映したり、若い人向けのアイドルのコンサートを企画したりして大いに稼いで、その稼いだお金を、注目度が低いけれどももっと知ってほしい芸術文化や、守って次の世代に引き継がなくてはならない郷土芸能の振興に配分しなくてはなりません」という答えが返ってきて、すっきりしたことを覚えている。
 自然や歴史や文化芸術といった「非経済財」をフル活用して2020年の東京オリパラの目標に向かわなくてはならないが、九州の場合、課題も少なくない。
1つは、九州の場合、活用すべき「文化」に関連する地域資源が多過ぎて的を絞れない(代表例は世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産」)。
 2つには、「自然・歴史・文化」の演出力が不足している。
 3つには、地域の文化芸術を担っていく「人材育成力」と「資金調達力」が弱い(担い手が必ずしも地域にいなくてはならないのか、「自助」と「公助」に頼りすぎで「共助」が弱体化していることを反省する必要はないのか、クラウドファンディングは活用できないのか等々)。
こういった諸課題は以前から指摘されていて、それらを解決して地域の自然・歴史・伝統芸能を楽しんでもらおうという試みは古くからトライされてきたが、全国の注目を集めて、比較的うまくいった事例として挙げられるのが、1999年から始まった「別府八湯ウォーク」や、ちょうど10年前の2006年に7か月間大々的に開催された「長崎さるく博」である。両者が画期的だったのは以下の点。
 ① 観光の主流が、自由に移動する個人旅行に変わったことに対応している。
 ② 市民の中から観光ボランティアガイドを育てる市民参加型かつ既存施設活用型の観光イベントである。
 ③ 「さるく」ことがメインなので、今の健康ブームに対応している。
  この「別府八湯ウォーク」や「長崎さるく」は、あまり知られていないが、その後「九州さるく」として展開され続けているので、ここに芸術文化の要素を取り込んでいく工夫があっても面白いのではないか。
日本は一昨年まで、「貿易は黒字だが、海外旅行収支は赤字」という状況が続いていたが、昨年、それが45年振りに逆転した。「人を呼んで栄える国」へと変化しつつあるなか、九州もそれにふさわしい体制を作る必要がある。東京オリパラへのカウントダウンが始まった今、1年後、2年後、3年後に向けた目標設定をして、2020年に九州の芸術文化が広く世界に知られるような体制づくりが求められている。


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