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総務省の「ふるさとワーキングホリデー」制度

2016年9月1日

 総務省は、先日、都市部の学生や若手社員が長期休暇を利用して1週間から1カ月ほど地方で働く「ふるさとワーキングホリデー」制度を2017年から立ち上げると発表した。地方志向の大学生向けインターンシップ促進策と大企業の新入社員の地方研修を推進しようということらしい。制度の利用を希望する都道府県は市町村と連携して数百人程度の参加者の住まいや就業先を斡旋し、地方で主に「製造業」や「観光業」、そして「農業」に従事してもらう。最終的には人口減少が加速する地方への移住を促す狙いがある。
通常のワーキングホリデーは、若者が海外で働きながら勉強する制度で、語学留学が多い。日本政府とワーキングホリデー査証(ビザ)に関する協定を結んでいるのは16か国・地域(発効順にオーストラリア、ニュージーランド、カナダ、韓国、フランス、ドイツ、イギリス、アイルランド、デンマーク、台湾、香港、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スロバキア、オーストリア)ある。総務省はこの制度の国内版として大都市在住の若者の都市農村交流を活発化したいという意向のようだ。
 この新しい制度に対して、国は2016年度補正予算案と2017年度予算の概算要求に、都市と地方の交流事業として計22億円を盛り込んだ。先進的に取り組む自治体に対して費用を助成する。ただ、参加者の滞在費は原則として仕事の収入で賄ってもらうのだと言う。果たして滞在費を賄うだけの賃金を支払えるだけの事業所が地方にどれだけあるのか。また、人材育成につながるような研修事業を提供できる事業所がどれだけあるのかも未知数だ。今現在、有償でインターン学生を受け入れている企業は地方にも多いが、実際にインターンシップを経験した学生に聞くと「イベントの企画立案に参加するつもりだったけど、インターン期間の1週間、イベント会場で朝から夕方までずっと焼きそばを焼き続けてインターンは終わった」という事例もあるくらいだ。体の良い「バイト学生」としての扱いに終わるという「残念ながっかりインターンシップ」があるのも事実なので、「ふるさとワーキングホリデー」の場合も、自治体が質の良い就業先をどれだけ斡旋できるかが勝負どころとなるだろう。
 今回の「ふるさとワーキングホリデー」制度のような都市と地方の交流事業としてまず頭に浮かぶのは、「グリーンツーリズム」だ。費用を参加者自身が負担して短期的な観光旅行を兼ねた農業体験を通して住民との「ふれあい」を楽しむというグリーンツーリズムの場合は、「観光旅行」がメインで、「仕事」つまり「体験農業」は有料のオプション商品として位置づけられるが、今回の「ふるさとワーキングホリデー」制度の場合は、参加者が「労働」を提供して、受入事業所がその対価を払う。つまり「参加者はお客様ではない」という発想だ。もう一歩踏み込んで、「地方や農村社会の生活文化」を学んでもらおうというという点が異なる。
 そんな「ふるさとワーキングホリデー」の発想の原点は、「農村ワーキングホリデー」にある。そして日本で最初に「農村ワーキングホリデー」に取り組んだ自治体は、総人口1000人強で、面積の96%を山林が占める「宮崎県西米良村」だ。宮崎県西部、熊本県との県境に位置する西米良村は、都市住民との交流を村の活性化につなげようと、今から18年前の1998年(平成10年)に全国に先駆けて「西米良型ワーキングホリデー制度」を始めた。運営主体は第3セクター「株式会社 米良の庄」。受け入れ農家の状況を確認しながら、田舎暮らしと体験農業を希望する大都市の参加希望者に、人手を必要とする農家を紹介した。参加者は農作業の対価として得た賃金を使って村に滞在する。参加者の報酬は1人1日(7時間労働)、4,600円。時給664円。報酬をもらえるかわりに往復交通費も宿泊費も食費も全て参加者自己負担となっている。制度発足当初、5戸だった受け入れ先は現在、ピーマンやユズなどの生産農家や食品加工所を合わせて10件ほどに増えている。双子キャンプ村のコテージに113,000円(5人・10人用)で宿泊でき、滞在費用はほとんどかけずに余暇を過ごすことも可能だ。
 これまでに420人が農村ワーキングホリデーを体験しているが、西米良村自身も驚いたのは、当初想定していた参加者は中高年層だったが、実際の参加者の過半数が比較的若い世代の独身女性で占められていたこと。女性活躍社会は、実は地方で進んでいるのかもしれない。
この西米良村に続けと農村ワーキングホリデー制度を始めたのが、人口が西米良村の100倍の10万人強の長野県飯田市。鉄道駅や高速道路にも恵まれていて、将来はリニア中央新幹線駅も設置予定だ。こちらは受入農家数が100戸以上あり、これまでの参加者数は6,300人。ただ、西米良村と異なるのは、数日間、農家と寝食を共にして、ボランティアとして農作業の手伝いをするということ。報酬がない分、宿泊費も食費も受け入れ農家が負担するというのが飯田市の仕組みだ。
 全国の「田舎暮らしファン」の間では、この「西米良村型」と「飯田市型」でどちらの農村ワーホリが良いかという議論がこれまで交わされてきたのだが、ここに来て突然浮上したのが総務省の「ふるさとワーキングホリデー」制度話だ。今まで農家と市町村が知恵を出し合って試行錯誤してきた「農村ワーキングホリデー」を参考にして、中央省庁が手柄の横取りのように画一的な制度を全国展開し始めるというのだから、「田舎暮らしファン」にとっては面白くない。
 一方、都市農村交流にあまり関心のない方からは、ネット上で批判の声が殺到している。「休暇を活用してまで働くことを国が勧めるというのはおかしい」(ワーキングホリデーと言うよりワーカホリック)とか、「地方が労働力を安く使おうとしているだけなのに、なぜ政府が税金を投入するのか」といった否定的な意見だ。
 要するに、今のところ「田舎暮らしファン」からも、そうでない人からも総スカン状態にあるので、総務省は制度をスタートする前にもっと丁寧に説明する必要があるだろう。そもそもネーミング的に「ふるさと」と名付けたのは「ふるさと納税」で総務省が味をしめたからだろうが、その「ふるさと納税」自体も制度設計がおかしいのではないかと批判されている。加えて、そもそも、農村の活性化策なら、本来業務としてこれまでも支援してきた農林水産省主導で提案すべき事案ではないかという気もする。
 賛否両論渦巻く中でスタートしそうな「ふるさとワーキングホリデー」制度だが、国が全国一律に都市農村交流を推進するのではなく、やる気のある地方独自の多様な取り組みを国がサポートする程度にとどめておいたほうが「地方創生」時代にマッチするのではないだろうか。

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